手紙を書く男

作品の概要

『手紙を書く男』（蘭: Briefschrijvende man、英: Man Writing a Letter）は、オランダ黄金時代の画家ハブリエル・メツーが1664年から1666年にかけて制作した油彩画です。板に描かれたこの風俗画は、同時期に描かれた『手紙を読む女』と対作品であり、メツーの円熟期における代表作として知られています。現在は、アイルランド国立美術館に所蔵されています。

作品の詳細

絵画には、開いた窓の前に座り、羽根ペンで手紙を書いている男性の姿が描かれています。彼は黒い絹のスーツに白いリネンのシャツを着用しており、その服装やペルシア絨毯、銀製の筆記用具は、彼の裕福な身分を物語っています。部屋の隅に置かれた地球儀は、彼が商人や科学者のような知識人であることを示唆しています。また、壁に掛けられたヤコブ・ファン・デル・ドゥース1世の風景画は、彼の趣味の良さを表しています。

さらに、彼の多情な性格は、絵画に描かれた山羊や、金メッキの額縁に象られた鳩によって暗示されています。幅木に描かれたデルフト陶器のタイルには鳥の図像が描かれており、これらの要素が作品全体の雰囲気を豊かにしています。

対作品との関係

『手紙を書く男』は、『手紙を読む女』と対をなす作品です。男性は、午後の暖かい光の中で手紙を書いているのに対し、女性は翌朝の少し冷たい光の中で手紙を読んでいます。この対比は、時間経過や感情の変化を表していると考えられます。メツーは、ヘラルト・テル・ボルフの作品から対作品のアイデアを得たとされていますが、フェルメールからの影響も見られ、光の表現や大理石の床の描写には、その影響が顕著です。また、タイルに描かれた鳥の図像は、フェルメールの『牛乳を注ぐ女』にも見られます。

来歴

メツーの対作品は、アムステルダムの仲買人ヘンドリック・ソルフが所有していましたが、彼の死後、1720年にへオルへ・ブラインに売却されました。その後、ヨハネス・コープ、ヘリット・ブラームカンプなどの収集家の手に渡り、1771年にはヤン・ホーペが購入しました。さらに、フランシス・ペルハム・クリントン・ホープ卿を経て、画商に売却された後、アルフレッド・バイト卿が相続しました。

1974年と1976年には盗難に遭いましたが、後に取り戻され、1987年にアイルランド国立美術館に寄贈されました。

評価

これらの対作品は、一般的にメツーの最高傑作と見なされています。2011年には、ニューヨーク・タイムズでカレン・ローゼンバーグが「驚くべきもの」と評し、NPRのスーザン・スタンバーグは「素晴らしい技術と精緻に描かれた細部を持ち、見事に描かれている」と絶賛しました。これらの評価は、作品の芸術的価値を裏付けています。

この作品は、当時の社会や文化、人々の生活を垣間見ることができる貴重な資料であるとともに、ハブリエル・メツーの卓越した画力を示す作品として、今日でも多くの人々を魅了し続けています。

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