投げ釣り

投げ釣り（なげづり）とは、主に海の広大なエリアで行われる釣法の一つです。この釣りの最大の特徴は、専用に設計された釣り竿やリールなどの道具を使用し、餌を取り付けた仕掛けを遠方へと力強く投擲（とうてき）することにあります。海底付近に生息する様々な魚類を狙うために発展してきた釣り方です。この釣りのルーツは、神奈川県の沿岸部、特に湘南地域にあると言われています。

投げ釣りの主要なターゲットとなるのは、その名の通り海底やその近くで生活する魚たちです。代表的な対象魚としては、投げ釣りの代名詞ともいえるキス、冬場の人気ターゲットであるカレイ、根回りを好むアイナメ、そして警戒心が強い大物のクロダイなどが挙げられます。
この釣りが可能な場所は多岐にわたり、消波ブロックなどで整備された堤防（防波堤）、変化に富んだ地形を持つ磯場、そして広々とした砂浜などが主な釣り場となります。場所や季節によって狙える魚種が大きく変わることも、投げ釣りの魅力であり、多様な魚と出会える可能性を秘めている点がこの釣りの特徴の一つです。

基本的な釣り方は、竿を大きく振りかぶり、仕掛けを目的のポイントまで正確かつ遠くに投げ込みます。仕掛けは、一般的にオモリを中心とし、その上下に釣り針や天秤などが取り付けられた構造をしています。この仕掛けを、専用の投げ竿とリール、そして釣り糸（ライン）を使って遠くまで運びます。
使用される投げ竿は、重いオモリを遠くまで飛ばすために強度と反発力が高く設計されており、長さも通常の竿より長いものが一般的です。リールは、特に遠投性能に優れたスピニングリールが主流ですが、その進化の過程で様々なタイプが登場しました。釣り糸も、初期の自然素材から化学繊維へと進化し、飛距離や強度に大きく貢献しています。

投げ釣りの歴史を遡ると、現在のようにリールが普及する以前にも、遠くへ仕掛けを飛ばす工夫がなされていました。その一つに、ドーナツ状のオモリに仕掛けを結びつけ、その中央の穴に竹竿の先を通して遠くへ振り出す方法があります。これは特に千葉県の九十九里浜などで実践され、当時の技術では画期的な50メートル程度の飛距離を実現していたと伝えられています。
近代的な投げ釣りの道具は、第二次世界大戦後に大きく発展しました。まず、太鼓型リールが登場し、その後、投擲時に回転軸を垂直にする横転リールが開発されます。そして、糸をスプールから放出する仕組みを持つスピニングリールの登場が、投げ釣りの遠投性能を飛躍的に向上させる最大の契機となりました。
リールだけでなく、釣り竿も竹からグラスファイバー、そして軽量かつ高強度のカーボンファイバーへと素材が進化し、飛距離と操作性の向上に寄与しました。釣り糸も、蚕の繭から作られた本テグスから、より強く扱いやすいナイロン糸、そして極細でも高強度を誇るPE（ポリエチレン）糸へと進化し、道具全体の性能向上に不可欠な要素となっています。

現代の投げ釣りは、道具の革新と釣り人の技術向上により、かつては考えられなかったほどの遠投が可能となっています。使用するタックルの質や、釣り人の体力、そして投擲技術によって異なりますが、訓練を積めば仕掛けを200メートル近くまで飛ばすことも夢ではありません。
この遠投技術は、単に魚を釣るためだけでなく、それ自体を競うスポーツとしても発展しています。仕掛けを付けずにオモリだけを投げて飛距離を競う「キャスティング競技会」が国内外で開催されており、これは投げ釣りの技術的な極限を追求する場となっています。
このように、投げ釣りは古くから存在する釣法でありながら、道具の進化と共に発展を続け、多様な魚を狙える奥深さと、遠投というダイナミックな魅力を持つ釣りとして、多くの釣り人に親しまれています。

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