投扇興

投扇興（とうせんきょう）とは

投扇興は、日本の伝統的な対戦型ゲームの一種です。桐箱の台に立てられた「蝶」と呼ばれる的に向かって扇を投げ、その扇・蝶・枕によって作られる形を、源氏物語や百人一首になぞられた点式にそって採点し、その得点を競います。

歴史・由来

投扇興は江戸時代中期、安永2年（1773年）頃に京都で生まれたとされています。中国から伝わった投壺（とうこ）という遊びがありましたが、作法やルールが煩雑で、誰もが気軽に楽しめるものではありませんでした。そこで、女性や子供でも手軽に楽しめる遊びとして投扇興が考案され、庶民の間で大流行しました。

しかし、投扇興が賭博に利用されることもあり、幕府からたびたび禁止令が出されることもありました。明治時代以降は、西洋化の影響などによって、投扇興は一部の人々の間で楽しまれる程度に衰退していきました。

戦後になって復興され、現在は大小の団体が様々なルールや形式を用いて活動しています。マスメディアにも度々取り上げられ、認知度も向上しています。

投扇興の道具

蝶（的）

一般的にはイチョウの葉の形をした布張りのもので、両脇に鈴が垂らされています。下には五円玉数枚を入れた錘がついています。大きさは流派によって異なりますが、9×9cm程度です。

木製の的や、和紙で小銭を包んだ「花」と呼ばれる的を用いることもあります。

枕（台）

的を乗せる台で、主に桐材が使用されます。絵が描かれているもの、文字が書かれているもの、友禅紙を貼ったものなどがあります。大きさは流派によって異なりますが、17.5×9×9cm程度です。

扇

投扇興専用の規格で作られた扇が用いられます。

宮脇賣扇庵の扇や、其扇流とその支流で用いる扇は、閉じた時の長さが約25cm、開くと幅が約40cm程度の骨8本のものが用いられます。この扇は、紙の重さに対して骨を薄く少なくして軽量化されており、ふわりと飛ばせるようになっています。

戸羽流や御扇流は、骨10本または12本の扇を用います。

流派・団体

有名な流派としては、其扇流（きせんりゅう）、御扇流（みせんりゅう）、都御流（みやこおんりゅう）、戸羽流（とわりゅう）の四大流派があります。その他にも数多くの流派・団体が存在し、その数は数十に及ぶと考えられます。

其扇流・東都浅草投扇興保存振興会

1975年頃、浅草観光連盟の扇塚供養のイベントとして復興されました。浅草見番で毎年1月から9月の奇数月に例会を行い、11月には大会、毎年4月には浅草寺伝法院で大会を開いています。数人から数十人のグループによる独自の活動も行われています。

銘定は宮脇賣扇庵の点式をベースに、点数をアレンジした源氏物語形式を使用しています。発足当初は19種類に絞っていましたが、後に26種類、40種類、そして最終的に54種類に増やされました。

道具は荒井文扇堂製などが用いられます。

夕霧の会

2004年に発足。最初は其扇流の源氏物語形式40種類を採用していましたが、後に独自の源氏物語54種類に移行しました。北海道および関東圏を中心に活動しています。

道具は宮脇賣扇庵製などが用いられます。

日本投扇興連盟

前身は其扇流の赤坂連。独自の百人一首形式31種類で普及活動を行っています。東京、埼玉、栃木、群馬に支部があり、定例会が開かれています。

日光二荒山神社では毎年大会が行われます。

道具は投扇菴製などが用いられます。

蟻蟻連・神楽坂投扇興の会

銘定は宮脇賣扇庵の点式をベースに、点数をアレンジした源氏物語形式を使用しています。

道具は雲錦堂製などが用いられます。

都御流

よきひ形式と源氏物語形式（宮脇賣扇庵の点式）、組扇（団体戦）、そして投壺も行っています。京都と東京に道場があり、例会が開かれています。

道具は宮脇賣扇庵製などが用いられます。

戸羽流・戸羽の会

ネット通販などで道具が流通している流派です。扇や半げしょうで予約すれば体験できます。

点式は18種類の百人一首形式と、名前を変えた源氏物語形式が存在します。近年、市販されている道具にセットでついてくる点式が新たな源氏物語形式に変更されました。

後楽園遊扇会

2000年の「おかやま後楽園300年祭」で投扇興を行ったことがきっかけで始まりました。点式は戸羽流の百人一首形式などと同じものを、名前を変えて使用しています。

御扇流の道具、戸羽流の道具、荒井文扇堂製などを使用しています。

御扇流・日本投扇興保存振興会

1974年に設立された、歴史のある投扇興団体です。現在はNPO法人となっています。秋篠宮文仁親王も幼少期に遊ばれたことがあります。ミス投扇興を選出しており、松居一代もその一人でした。

独自の百人一首形式24種類を使用します。枕や蝶は大きく、扇は小さいものを使用し、ルールも独自性があります。

美扇流

関西、大阪を中心に活動している投扇興の流派です。シテ方観世流能楽師の藤井丈雄が家元を務めています。

戦前に大阪の心斎橋一丁目で営業していた久保田扇舗の源氏物語形式54種類の点式を復刻し、一部改変して使用しています。

ゲームの流れ・ルール

流派によって異なりますが、緋毛氈の中央に的を置き、投者2名が向かい合って扇を交互に10回程度投げ、合計得点の高いほうが勝者となります。

投げる距離は0.9〜1.8mです。距離が近い流派の場合、投げる際に前かがみになってはならないなどの制約があります。

銘定（得点方法）

扇・蝶・枕によって作られる形を「銘」と呼びます。銘には『源氏物語』54帖の名前や『百人一首』に因んだ名前、地域にゆかりのある名前などが付けられています。

流派によって同じ銘でも定義や点数が大きく異なる場合があります。一般的に、枕を倒した場合の得点は低く（マイナス点になることが多い）、形が美しいほど、また難易度の高い形ほど得点が高くなります。

其扇流などは銘定を門外不出としていますが、夕霧の会・日本投扇興連盟・美扇流などは公式サイトでPDFファイルを配布しています。

宮脇賣扇庵の銘定

宮脇賣扇庵で販売されている点式の源氏物語形式54種類の銘定は、大正時代から現在まで発行され続けています。都御流で使用されている他、其扇流や夕霧の会、神楽坂投扇興の会なども点数や解釈を改変して使用しており、投扇興の銘定の標準的な形と言えます。

日本投扇興連盟の銘定

源氏物語形式の銘定の形や点数を元に、百人一首に見立てて31種類に集約しています。倒れた蝶と扇が重なり合った場合、どちらが上でも下でも同じ銘になったり、蝶を倒さない限り点数がつかないなどの特徴があります。

戸羽の会の銘定

投扇興図式などの銘定を元にした百人一首形式です。扇が蝶を覆った「雲がくれ」や、枕の上で蝶が倒れた「おく霜」が減点になるのが特徴です。

御扇流の銘定

独自の百人一首形式の銘定です。落ちた扇は片付けずに試合を進めるため、「紅葉」のように2本の扇に蝶が挟まれる銘もあります。

美扇流の銘定

戦前に大阪の心斎橋一丁目で営業していた久保田扇舗の源氏物語形式54種類の点式を復刻し、一部改変して使用しています。

関連項目

お座敷遊び
扇子
源氏物語
百人一首
投壺
ぽかぽか - フジテレビ系列のバラエティ番組。2024年10月から投扇興企画が行われています。

外部リンク

投扇興研究室
伝統ゲーム「投扇興」
夕霧の会
日本投扇興連盟
都御流・投げ扇の世界
日本投扇興保存振興会（御扇流）
投扇興・美扇流（大阪の流派）
岡山後楽園（後楽園遊扇会）

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