抛磚引玉

抛磚引玉（ほうせんいんぎょく）

「抛磚引玉」は、兵法三十六計の第十七計に数えられる戦術であり、「磚（レンガ）を抛（なげう）ちて玉（ぎょく）を引く」と読み下します。これは、自身の未熟な意見や誤りを含む情報をあえて提示することで、相手から価値ある意見や情報を引き出すことを意味します。日本の諺で言うところの「海老で鯛を釣る」とほぼ同義であり、より価値の高いものを得るための手段として、質の低いものを敢えて差し出すという戦略です。

戦術の概要

この戦術は、相手を欺いたり、油断させたりすることで、最終的に自らに有利な状況を作り出すことを目的としています。自らの意見を「磚（レンガ）」、引き出される価値ある意見を「玉（宝石）」に例え、レンガを投げることで宝石を手に入れるという比喩的な表現が用いられています。これは、ビジネスや交渉の場においても、相手の考えを引き出すための有効な手段として活用できます。

具体的な事例

事例1：楚による絞攻略

紀元前700年頃、楚が絞（国名）を攻略しようとした際、絞軍は城に篭って抵抗しました。楚の屈瑕は、兵士を「きこり」に変装させ、絞の山で木を切らせることで、絞軍をおびき出す作戦を立てました。この「きこり」に変装した兵士たちが「磚（レンガ）」の役割を果たし、絞軍をおびき出すための誘餌となりました。絞軍は「きこり」を捕縛しましたが、楚軍は連日のように「きこり」を送り込み、挑発を続けました。6日目にして、ついに絞の大軍が城から出て、「きこり」を追いかけました。そこで楚軍は伏兵を配置し、絞軍を撃破することに成功しました。この事例では、「きこり」という偽りの情報を提供することで、絞軍を城から誘い出し、勝利を収めています。

事例2：契丹による唐軍撃破

紀元690年、契丹の孫万栄は、唐軍の捕虜を劣悪な環境で抑留した後、唐に返還しました。この捕虜たちが「磚（レンガ）」となり、唐軍を欺くための情報源となりました。唐に戻った捕虜たちは、契丹軍の食料が不足しており、士気が低下しているという偽の情報を報告しました。唐軍はこれを好機と捉え、進軍を開始しましたが、これは孫万栄の策略でした。契丹軍は、断崖絶壁に囲まれた西硤石谷に伏兵を配置し、進軍してくる唐軍を待ち構えていました。そして、唐軍が谷に侵入すると、伏兵が一斉に攻撃を仕掛け、唐軍を撃破しました。さらに、契丹軍はここで捕縛した唐の指揮官から印を奪い、偽の報告書を作成して後続の唐軍をおびき寄せ、同じく西硤石谷で襲撃し、大勝利を収めました。この事例では、捕虜という「磚（レンガ）」を利用し、偽の情報を流すことで唐軍を誘い込み、壊滅させることに成功しています。

まとめ

「抛磚引玉」は、一見すると不利に見える状況を逆手に取り、相手を欺くことで有利な状況を作り出す戦術です。この戦術は、情報操作や心理的な駆け引きを通じて、相手の判断を誤らせ、自らの目的を達成するために用いられます。現代社会においても、交渉術やマーケティング戦略など、様々な場面で応用できる考え方です。

もう一度検索