抜け荷

抜け荷（ぬけに）

抜け荷とは、江戸時代に江戸幕府の禁令を破って行われた密貿易を指します。主に、日本に来航したオランダ人や中国人などを相手に行われました。

概要

寛永年間（1624年 - 1644年）以降、日本の貿易は長崎に限定され、その後、貿易相手国は中国とオランダのみに制限されました。さらに、渡来船の数や貿易額も厳しく制限されるようになります。貿易は幕府公認の特許商人によって行われ、元禄年間（1688年 - 1704年）以降は長崎会所に限定されました。これらの厳しい制限を逃れ、利益を得ようとする者たちによって、抜け荷が行われるようになったのです。

江戸幕府は抜け荷の防止に力を入れ、正徳4年（1714年）以降、たびたび禁令を発令し、違反者には死罪を科すなど厳罰をもって臨みました。しかし、抜け荷は後を絶たず、幕末に至るまで根絶することはできませんでした。興味深いことに、享保年間（1716年 - 1736年）には、捕らえた密貿易商を釈放し、逆に抜け荷の監視役として利用することで効果を上げた例もありました。

有名な抜け荷に関わった人物としては、延宝4年（1676年）に捕えられ隠岐に流罪となった長崎代官・末次平蔵茂朝や、嘉永6年（1853年）に捕えられ死刑に処された加賀の銭屋五兵衛などが挙げられます。

抜け荷の多くは唐船（中国船）との間で行われました。事前に日時や場所を打ち合わせ、通常の航路を外れた海上において、夜間に取引を行うのが常套手段でした。中には、唐人と通じて唐人館内（中国人居留地）で取引を行う者や、外国船に漂流を装わせ、九州などの人通りの少ない海岸で密貿易を行う者もいました。時代が下ると、唐やオランダ以外の国とも密貿易を行う者が現れるようになります。これらは、主に外国船との間で行われた抜け荷の形態です。

一方、藩によっては、藩営の専売制、またはそれに類似した制度を設け、特定の商品を藩外と密かに売買することを禁じていました。この禁を犯す行為も「抜け荷」と呼ばれました。例えば、会津藩の「抜け蝋」や、阿波藩が藍の抜け荷を取り締まるために「抜荷制道役」を設けた事例などが挙げられます。

なお、「ぬきに」（抜き荷、抜荷）という言葉もありますが、これは船頭が委託された荷物から商品を抜き取って私的に販売する行為を指し、抜け荷とは区別されます。

関連項目

竹島事件
唐物抜荷事件

脚注

関連文献

* 山脇悌二郎『抜け荷 : 鎖国時代の密貿易』日本経済新聞社〈日経新書〉、1965年。全国書誌番号:65002270。

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