抱きしめたい (ビートルズの曲)

ビートルズ『抱きしめたい』：世界を席巻した名曲の軌跡

ビートルズの楽曲、『抱きしめたい』(I Want To Hold Your Hand) は、1960年代の音楽シーン、ひいては世界文化に革命的な変化をもたらした楽曲として知られています。1963年11月、イギリスでシングルとしてリリースされると、予約注文だけで100万枚を超えるという驚異的な数字を記録。発売日に全英シングルチャートで堂々の1位を獲得し、5週連続で首位をキープ、その後も21週にわたってトップ50圏内にランクインするロングヒットとなりました。

この曲は、ビートルズの初期代表作として数々の賞を受賞しています。1998年にはグラミーの殿堂入りを果たし、2018年には『ビルボード』誌のオールタイム・チャートで48位、2021年の『ローリング・ストーン』誌のオールタイム・グレイテスト・ソング500では15位にランクインするなど、時を超えて愛され続ける名曲として高い評価を得ています。

誕生秘話：ジョンとポールの共作

『抱きしめたい』は、ジョン・レノンとポール・マッカートニーによる共作です。制作は、マッカートニーがジェーン・アッシャーと交際していた時期に、アッシャー家の地下室で行われました。レノン自身、1980年の『プレイボーイ』誌のインタビューで、この地下室を新しい作曲拠点として二人でピアノを弾きながら曲を創り上げたことを語っています。マッカートニーも、このレノンの証言を後に裏付ける形で、二人で正面から向き合って作曲したと述べています。音楽評論家のイアン・マクドナルドは、この曲は、抒情的で柔らかな雰囲気のフレーズをランダムに考え出し、サウンドに合ったものを繋ぎ合わせて作られた可能性を指摘しています。

4トラック・レコーダー：画期的なレコーディング

『抱きしめたい』は、ビートルズが初めて4トラック・レコーダーを使ってレコーディングした曲の一つでもあります。EMIレコーディング・スタジオで1963年10月17日にレコーディングが行われ、完成までに17回ものテイクを重ね、10月21日にはジョージ・マーティンによってステレオとモノラルミックスが作成されました。その後、ステレオミックスは複数回作り直され、様々なコンピレーションアルバムに収録されるなど、その音源は現在まで受け継がれています。さらに1964年にはドイツ語バージョンも制作されています。

世界的な成功：アメリカ市場への進出

イギリスでの大成功を受けて、『抱きしめたい』はアメリカでも発売されました。当初、アメリカでのビートルズ人気は限定的でしたが、『ライフ』誌や『ニューズウィーク』誌が特集記事を掲載し、ラジオDJが楽曲を放送し始めたことで人気は急上昇しました。これを受けて、これまでビートルズのレコード発売を拒否していたキャピトル・レコードも方針転換し、レコードの販売権を独占契約。アメリカでのリリースは1964年1月18日付のBillboard Hot 100で初登場45位を記録、そして2月1日付の同チャートで1位を獲得、その後7週連続で1位を維持し、15週に渡ってチャートインという大ヒットを記録しました。アメリカでの売上は500万枚を超え、イギリスでも170万枚以上の売上を記録、世界規模での大ヒットとなりました。

各国のリリースと様々な収録

イギリスではEMIパーロフォンから、アメリカではキャピトルレコードからリリースされた『抱きしめたい』ですが、日本でのリリースは1964年2月5日。東芝音楽工業オデオンレーベルから発売され、当初は『プリーズ・プリーズ・ミー』がデビューシングルとなる予定でしたが、アメリカでの人気の高まりを受けて急遽『抱きしめたい』が前倒しでリリースされました。そのため、レコード番号は『プリーズ・プリーズ・ミー』の方が若い番号になっています。また、ジャケットの差し替えが間に合わなかった初期ロットも存在するなど、その発売には当時の状況が色濃く反映されています。

ドイツ語版と様々なカバー

1964年にはドイツ語版『Komm, Gib Mir Deine Hand』(来て、あなたの手を取りたい)が発表されました。ビートルズは当初このドイツ語版のレコーディングを拒否し、ホテルに立てこもる事態にまで発展しましたが、プロデューサーのジョージ・マーティンが説得し、レコーディングは行われました。このドイツ語版は、オリジナルの歌詞を翻訳したものではなく、新たに創作された歌詞が使用されています。

『抱きしめたい』は、その後も多くのアーティストによってカバーされています。アーサー・フィードラーやアル・グリーン、スパークス、ダラー、レイクサイド、佐藤博、そして映画『イエスタデイ』でも演奏されるなど、その影響は多岐に渡ります。

評価と文化的影響

『抱きしめたい』は、アメリカンポップスに衝撃を与え、音楽史に大きな足跡を残したと評されています。音楽評論家やミュージシャンからの賛辞は数多く、その多くが、この曲が音楽シーンを塗り替え、新しい時代を切り開いたと証言しています。ボブ・ディランやブライアン・ウィルソンも、この曲への強い印象を語っています。AP通信のシンシア・ローリーは、ビートルマニアへの苛立ちを露わにしながらも、この曲の圧倒的な人気を認めざるを得ませんでした。

『抱きしめたい』は、1964年のグラミー賞最優秀レコード賞にもノミネートされ、1998年にはグラミーの殿堂入りを果たしています。そして今日まで、数々の音楽チャートにランクインし、世界中で愛され続けています。そのシンプルながらも力強いメロディー、そして革新的なサウンドは、時代を超えて人々の心を掴み続けていると言えるでしょう。

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