抱擁家族

小島信夫の『抱擁家族』について

『抱擁家族』は、小島信夫による長編小説であり、1965年に発表され、同年に谷崎潤一郎賞を受賞した作品です。この小説は、戦後日本の家庭や人間関係の複雑さを描き、特に「成熟」と「喪失」といったテーマに焦点を当てています。

制作背景

この作品が生まれた背景には、小島自身の私生活が大きく影響しています。特に、彼の妻が1963年に死去したことが、物語の根幹に色濃く反映されています。この個人的な悲哀が、彼の視点から生まれる主人公の内面的葛藤や家庭の崩壊に対する無力感を強調しています。

作品のテーマ

『抱擁家族』は、主人公・三輪俊介が家庭内の問題にどう向き合っていくかを描写しています。俊介は外国文学を専門とする大学教師で、普段は理知的で冷静な判断を下す人物として描かれています。しかし、妻・時子がアメリカ兵・ジョージとの肉体関係を持っていたことを知った瞬間、彼の内面に動揺が生じます。この出来事は、主人公が持つ倫理観の限界を露呈させ、家庭を守るためにどのように行動するかという課題を突きつけます。

あらすじの展開

物語が進むにつれ、俊介は家政婦のみちよから妻の不貞行為を告知され、混乱に陥ります。時子自身は自らの行動について詫びることもなく、真実が浸透しないまま、食い違う言い分が家族内に横たわります。問題を解決するためには、時子からの提案を受け入れ、郊外に新しい家を建てることになります。この選択が家庭の危機を回避できると信じる俊介ですが、現実は厳しく、結果的に時子は乳癌により命を落とし、息子の良一も家出する事態に至ります。

評論と影響

この作品は、江藤淳の評論『成熟と喪失』によって広く取り上げられ、当時の社会状況や家庭の問題に対する考察の対象となりました。社会的な文脈の中で、作品が果たす役割が強調され、主人公の「父」としての統治能力の欠如が、結果として家庭崩壊を招く象徴として捉えられました。このような解釈は、多くの読者に共感を呼び込み、作品が戦後日本を考える上で繰り返し参照されることとなりました。

舞台化

1971年には、八木柊一郎によってこの小説が脚色された舞台が初演され、小島信夫自身も演出に関わっています。これにより、物語は新たな形で表現され、多くの観客にそのメッセージを伝えることとなりました。

外部リンク

• - 抱擁家族 - 講談社文芸文庫

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