押しがけ

押しがけとは

押しがけ（おしがけ）とは、自動車やオートバイのエンジンを、車両を人力で押すことによって始動させる手法を指します。この方法は、特にバッテリーが完全に放電してしまった場合など、スターターモーターが機能しない時に有効です。特に、従来のキャブレター式エンジンではこの手法が成功しやすいですが、近年の燃料噴射エンジンでは、エンジンコントロールユニット（ECU）が動作するために最低限の電力が必要です。従って、バッテリーの残量が不足している場合には、押しがけができないこともあります。

押しがけの概要

押しがけは、車両に外的力を加え、その回転運動をエンジンのクランクシャフトに伝える形でエンジンを始動させます。現在では、ほとんどの車両にスターターモーターやキックスターターといった始動機構が装備されているため、押しがけが必要とされる車両は少なくなっています。しかし、バッテリーの上がりやエンジンの故障などの場合には、依然として押しがけが必要になることがあります。また、車両を押す方法には、単に人力で押すだけでなく、下り坂を利用したり、他の車両で牽引したりする手法も存在します。牽引による始動は「引きがけ」とも呼ばれます。ただし、他の車両に助けを求められない場合には、ブースターケーブルを使って電力を補給するのが安全で確実な方法です。

押しがけの方法

押しがけには、以下の手順を遵守する必要があります。特に、四輪車の場合は多くの人手が必要となるため、注意が必要です。

1. イグニッションをオンにする：この時点で、電装品の電源は可能な限りオフにして、負荷を軽減します。

2. ディーゼルエンジンの場合：バッテリー残量でグロープラグやインテークヒーターを予熱します。

3. 高いギアに入れる：通常はトップギアに入れ、クラッチを踏み込みます。有効な始動ができるようにします。

4. パーキングブレーキの解除：車両が自由に動けるようになります。

5. 車両を押す：他の人に協力してもらい、約10 km/hの速度にまで加速させます。

6. クラッチを繋ぐ：速度がついたら、クラッチを一気に繋ぎます。この時、車を押している側には大きな抵抗がかかりますが、押し続けることが重要です。

7. エンジン始動：エンジンが始動したら、すぐにクラッチを切り、アクセルを踏んでエンストを防ぎます。

8. 安全に停止：バッテリーが放電していた場合は、アイドリングより高い回転数を維持し、バッテリーへの充電を行います。

この手順を数回繰り返してもエンジンが始動しない場合は、他の故障原因を考慮する必要があります。

オートバイレースにおける押しがけ

昔のオートバイのモータースポーツでは、エンジンが停止した状態から競技が始まり、ライダー自身がエンジンを始動するという形式の競技が存在しました。特に、1986年シーズンまでの世界グランプリロードレース選手権（WGP）では、各クラスとも押しがけによるスタートが行われていました。このような場合、ライダーは軽量化のためスターターモーターやキックペダルを装備せず、スタートの信号と同時にバイクを後ろから押しながら飛び乗るという光景が見られていました。これによりライダーの技術や体力が試される場面となっていました。

結論

押しがけは、適切な手順と安全な環境で行うことで、バッテリー上がりの際等にエンジンを始動させられる有用な方法です。とは言え、安全装置や適切な技術が求められるため、充分な理解と準備を持って取り組むことが重要です。

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