拳遊び

拳遊び

拳遊びとは、指や手、あるいは腕などの身体部位を使って勝敗を決める遊戯の総称です。広義には、他の身体部位や特定の道具を使用し、「拳」の名を冠する多様な遊びを含みます。この遊戯は東アジア地域で特に発達し、日本や中国を中心に古くから多くの種類が伝承されてきました。

起源と広がり

その起源は古く、元々は酒宴の席で人々が興じるための遊びとして親しまれていました。しかし、時代が下るにつれて、一部の拳遊びは子供たちの間でも広く楽しまれるようになりました。特に江戸時代には大人の遊びとして盛んに行われ、多様な形式が生まれました。

主な分類と歴史

拳遊びは、その勝敗決定方法や形式によっていくつかのカテゴリに分けられることがあります。代表的な分類として、「三すくみ拳」と「数拳」が挙げられますが、この二分法だけでは全ての拳遊びを網羅できるわけではありません。例えば、ある種の拳遊びは三すくみの要素と数拳の要素を併せ持っています（例: 球磨拳）。そのため、「相手を当てると勝つもの」「特定の条件を比較して勝敗が決まるもの」「正確な応答ができると勝つもの」といった、より細分化された分類方法も提案されています。ここでは代表的な形式として、三すくみ拳と数拳の歴史と特徴について解説します。

三すくみ拳

三すくみ拳は、三つの要素（人、動物、物など）が互いに強弱の関係を持ち、一方が他方に勝つが、その勝つ相手に勝つ第三の要素が存在するという、三者間の循環的な優劣関係（三すくみ）を用いて勝敗を決める遊びです。日本の歴史においても古くから存在が確認されており、平安時代には既に類似の遊びがあったとされます。

代表的な三すくみ拳の一つに虫拳があります。これはヘビ、カエル、ナメクジの三すくみ（カエルはナメクジに勝ち、ナメクジは蛇に勝ち、蛇はカエルに勝つ）を用いて勝敗を決めるもので、現代のじゃんけんと同じく、それぞれの役を指の形（人さし指が蛇、親指がカエル、小指がナメクジとされることが多い）で示します。

江戸時代後期には、読本や浄瑠璃で流行した児雷也（蝦蟇に変身する設定）の影響もあり、カエル、ナメクジ、ヘビの組み合わせを用いた蛇拳が流行しました。幕末にかけては、狐、庄屋（または猟師）、猟師（または鉄砲）の三すくみを用いた狐拳が広まります。狐拳から派生した藤八拳（東八拳）は、3連勝をもって一本とするルールや家元制度の導入といった要素が加わり、より競技性の高い遊びへと発展しました。

明治時代になると、数拳で用いられる手の形と、三すくみ拳の思想が融合し、現代日本で最も普及しているじゃんけんが考案されたと考えられています。日本以外でも、タイに「象、象使い、王様」の三すくみ拳が存在するなど、類似の遊びが見られます。

数拳

数拳は、二人のプレイヤーが同時に片手の指で任意の数（通常は0から5まで）を示し、同時に相手と自分の出した指の合計数を言葉で言い当てる遊びです。正しく合計数を言い当てた方がその勝負に勝ちます。

この遊びは中国を発祥とし、日本では18世紀初頭に広まり始めました。特に16世紀後半に長崎にもたらされたことから、長崎拳や崎陽拳（崎陽は長崎の漢語による別称）とも呼ばれました。江戸時代の天保年間頃までは、大人たちの間で最も盛んに行われる拳遊びの中心であり、酒宴の席などで広く楽しまれました。

現代でも、九州地方を中心に球磨拳のような数拳が伝統的な遊びとして受け継がれています。また、子供の遊びの中にも、指で数を示す形式を持つ数拳に似たものがいくつか存在します。

多様な種類

拳遊びには、上記の分類に収まらないものも含め、非常に多種多様なバリエーションが存在します。以下に、その一部を挙げます。

脚じゃんけん（あしじゃんけん）
兎拳（うさぎけん）
狐拳（きつねけん） - 狐、庄屋、猟師の三すくみ。
藤八拳・東八拳（とうはちけん）
球磨拳（くまけん） - 数拳の一種とされる。
なんこ・なんこ拳（なんこけん）
台湾拳（たいわんけん） - 数拳の一種。
本拳（ほんけん） - 数拳の一種。
長崎拳（ながさきけん） - 数拳の一種。
虫拳（むしけん） - カエル、ナメクジ、蛇の三すくみ。
野球拳（やきゅうけん）
雑拳（まぜけん） - 本拳と虫拳を組み合わせたもの。

これらの他にも、地域ごとに固有のルールや名称を持つ様々な拳遊びが存在し、日本の伝統文化の一端を形成しています。

関連事項

全ての「手を用いた遊び」が「拳遊び」と呼ばれるわけではありません。指や手を使った遊びのうち、特定の形式や歴史的経緯を持つものが拳遊びとして区別されます。「三すくみ」や「じゃんけん」は、拳遊びの重要な要素や関連する遊びとして理解されています。

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