拾った女

『拾った女』：スリとスパイ、そして国家機密

1953年、サミュエル・フラー監督・脚本によるアメリカ映画『拾った女』（原題：Pickup on South Street）は、フィルム・ノワールとして名高いスリラー作品です。主演はリチャード・ウィドマーク。第14回ヴェネツィア国際映画祭で銅獅子賞を受賞し、2018年にはアメリカ国立フィルム登録簿にも登録されるなど、高い評価を受けています。

舞台はニューヨーク。主人公は、生活のためにスリを働くスキップ・マッコイ（リチャード・ウィドマーク）です。彼は地下鉄で若い女性キャンディ（ジーン・ピーターズ）から財布を盗みますが、その中には共産圏のスパイ組織に関する極秘マイクロフィルムが隠されていたのです。

キャンディは、弁護士でありながら裏ではスパイ活動に関与するジョーイ（リチャード・カイリー）に仕えており、盗難を報告します。ジョーイは、マイクロフィルムを取り戻すため、部下を使ってスキップの追跡を開始します。

スキップは、盗んだ財布に隠された機密の重要性に気づきませんでしたが、ジョーイとその組織、そして彼を追う当局の間に挟まれ、危険な駆け引きに巻き込まれていきます。彼は、自分の身に降りかかった事態の重大さを徐々に理解し、スリとしての日常から一転、命がけの逃亡劇を繰り広げることになるのです。

映画は、ニューヨークの街並みを背景に、緊張感あふれる追跡劇と、陰謀の渦に巻き込まれた主人公の葛藤を描いています。サスペンスフルな展開と、陰影の深い映像表現は、フィルム・ノワールとしての魅力を存分に発揮しています。

キャストには、リチャード・ウィドマークの他に、ジーン・ピーターズ、セルマ・リッター、マーヴィン・ヴァイなど、実力派俳優が名を連ねています。彼らの演技は、それぞれのキャラクターの複雑な心理を巧みに表現し、物語に深みを与えています。

『拾った女』は、単なるスリラーにとどまらず、冷戦時代の社会情勢や、個人の運命と国家機密の関わりを鋭く描いた作品でもあります。時代背景を反映した緻密な脚本と、サミュエル・フラー監督独特の演出は、多くの観客を魅了し続けています。

なお、1967年には『謀略都市』（The Cape Town Affair）としてリメイクされています。監督はロバート・D・ウェッブ、舞台はニューヨークから南アフリカ共和国のケープタウンに変更され、ジェームズ・ブローリン、ジャクリーン・ビセット、クレア・トレヴァーらが出演しています。リメイク版も、オリジナル版と同様にスリラーとしての面白さ、そして時代背景を反映した内容で評価されていますが、オリジナル版の持つ独特の雰囲気や緊張感は、やはり別格と言えるでしょう。

『拾った女』は、スリラー映画、フィルム・ノワールファンのみならず、冷戦時代の社会情勢に興味を持つ人にもおすすめしたい、見応えのある作品です。そのサスペンスフルな展開と、時代を超越した魅力は、現代においても色あせることはありません。

もう一度検索