捨 (仏教)

仏教用語「捨（しゃ）」について

仏教における「捨」は、パーリ語の「ウペッカー」（upekkhā）、梵語の「ウペークシャー」（upekṣā）に由来し、感情に左右されない状態を指します。この状態は、苦しみや喜びという感覚を超越したものであり、「不苦不楽」とも表現される特別な心の状態です。つまり、「捨」は心の平静や中立を示す概念であり、自身の感情に振り回されることなく、バランスの取れた心境を保つことを意味します。

仏教の教理において、「捨」は様々な文脈で重要な役割を果たしています。具体的には、説一切有部の五位七十五法のうちの大善地法と呼ばれる一つであり、唯識学の五位百法においては善心所の一部として位置付けられています。また、四無量心の「慈・悲・喜・捨」の一要素でもあり、七覚支の中の大切な側面でもあります。このように、「捨」は仏教の多くの教えに深く根付いており、その理解は修行においても非常に重要です。

上座部仏教、特にテーラワーダ仏教圏では、慈愛の瞑想（mettā bhāvanā）という瞑想法が広く実践されています。この瞑想は「慈」という言葉が注目されがちですが、実際には四無量心、すなわち「慈・悲・喜・捨」すべての要素が含まれています。そのため、「捨」の実践がこの瞑想法において重要な位置を占めていることを理解することが重要です。

日本テーラワーダ仏教協会で教鞭を執るアルボムッレ・スマナサーラ長老は、「捨」を「感情の波が立たない心」と説明しています。しかし、彼はそれが無関心や鈍感であるという意味ではないと強調しています。むしろ、それは他者や生命の問題に対して直情的反応をせず、冷静な視点で観察し、どうすれば問題を解決できるかを見守る智慧をもっている状態と説明しています。この観点からも、「捨」は単なる心の静けさを超えた、思慮深さや理解力を含む深い意味合いを持っていることが明らかになります。

このように、「捨」は仏教の教えや修行において非常に重要な概念であり、心の状態を理解するための鍵です。感情に振り回されず、平静な心を持ちながら物事を観察することは、人生においても有益な視点となります。仏教の教えを通じて「捨」の理解を深めることは、日々の生活においても役立つでしょう。

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