掘り上げ田

掘り上げ田（ほりあげた）

掘り上げ田は、低湿地における独自の開田法であり、水位が高く水生植物が繁茂した地域での稲作を実現するために開発されました。この技術は、少なくとも14世紀中葉にまでその歴史をさかのぼることができ、日本の湿地帯に広く浸透しています。地域によって「堀上田（ホリアゲタ）」「畝田（ウネタ）」「浮田（ウキタ）」など、さまざまな名称が存在します。

掘り上げ田の特徴と構造

掘り上げ田は、主に水田内の内部を掘り上げて畔を立て、そこに稲を植える方法です。この開田法では、水田と水面が櫛状に並ぶ独特の景観が形成されます。実際には水路が掘られ、その水路から堆積土を盛り上げることで耕作地を整備します。これにより、冠水しやすいため、農作業には田舟などを利用し、効率的な労働が実現される一方で、手間がかかるという特性もあります。

また、掘潰れ（ほりつぶれ）などの水路は、水運や漁場としても大きな役割を果たしていますが、時間が経過するごとに土が水路に流れ込むことで堆積し、水路が浅くなるという問題が発生します。そこで、掘り上げ田の土を再び水路に盛り上げるという作業（これを「のろ上げ」「ノロアゲ」と呼ぶ）を定期的に行う必要が生じます。

各地における掘り上げ田の例

掘り上げ田は関東平野をはじめ、各地に見られます。例えば、関東の堀上田（ホリアゲタ）、石川県の畝田（ウネタ）、静岡県沼津市の新起こし（シンオコシ）、岐阜県の堀田（ホリタ）などです。特に牛久沼周辺では、岸辺に繋がったものを「掻上田（カキアゲタ）」、離れた場所にあるものを「浮田（ウキタ）」と区別しています。

存在していた掘り上げ田

掘り上げ田は以前に存在していたが、現在では見られなくなっている場所もあります。埼玉県での例としては、河原井沼（久喜市）、大浦沼（久喜市）、小林沼（久喜市）や、神扇沼（幸手市）などがあり、群馬県や茨城県にも同様の例が存在します。

農業と文化の交差点

掘り上げ田は、単に農業技術の一環として機能しているだけでなく、地域の文化や歴史と深く関わっています。周囲の自然環境や水の流れをうまく利用することで、持続可能な農業が成立し、地域の住民が長年にわたり安定した生活を営んできた証しとなっています。時にはこの技術が地元の祭りや伝説にも影響を与えており、ただの農地ではなく、地域のアイデンティティを象徴する重要な要素ともなっているのです。

掘り上げ田は、環境に適応しながら展開される農業技術の一例であり、地域ごとの独自性を反映した、多様な作業と暮らしの知恵を今に伝える重要な農業文化の一環です。

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