掛取引

掛取引（かけとりひき）

概要

掛取引とは、商品やサービスを提供した際に、その場で代金を受け渡しするのではなく、あらかじめ取り決めた期日（通常は月末や指定された日）にまとめて精算を行う取引形態を指します。これは現代の企業間取引において非常に一般的であり、代金の回収を後回しにして相手方の信用に基づいて取引を行うことから、「信用取引」とも称されます。

この取引方法が広く普及している背景には、取引の効率化が挙げられます。もし取引のたびに都度現金決済を行うと、経理処理や現金の受け渡しに膨大な手間と時間がかかります。掛取引を導入することで、一定期間（例えば1ヶ月）の取引をまとめて管理・精算できるようになり、事務処理の負担が大幅に軽減されます。

また、購入者側にとっては、商品やサービスを受け取ってから支払いまでの間に資金を準備できるため、資金繰りの負担が和らぎ、購入機会の拡大につながります。販売者側にとっても、取引のハードルが下がることで販売機会が増え、継続的な取引関係を構築しやすくなるというメリットがあります。

仕組みと関連用語

掛取引においては、「支払いサイト」と呼ばれる決済期間が設定されます。これは、請求期間の締め日（例：月末締め）から支払いを行う期日（例：翌月末払い）までの期間を定めたものです。販売者側は、一定期間の取引内容をまとめて「請求書」として購入者側に送付し、購入者側はその請求書に基づき、定められた期日までに指定の方法で代金を支払います。

この掛取引から生じる債権と債務には、それぞれ固有の名称があります。

売掛金（うりかけきん）
商品を販売した側が、将来顧客から代金を受け取る権利のことを指します。販売者は、売掛金という形の債権を有することになります。

買掛金（かいかけきん）
商品を購入した側が、将来販売者に対して代金を支払う義務のことを指します。購入者は、買掛金という形の債務を負うことになります。

企業の会計帳簿では、これらの取引はそれぞれ「売掛金」および「買掛金」という特定の勘定科目を用いて記録・管理されます。売掛金は企業の資産（流動資産）として、買掛金は企業の負債（流動負債）として、貸借対照表に計上されます。

メリットとデメリット

メリット

事務処理の効率化: 取引ごとの決済が不要になり、経理業務が効率化されます。
販売機会の拡大: 購入者の資金繰り負担を軽減し、購入を促進します。
継続的な取引関係: 信用に基づいた関係が構築され、リピート取引につながりやすくなります。
資金繰りの柔軟性（購入側）: 代金後払いにより、手元資金を他の用途に充当できます。

デメリット

貸倒れリスク: 購入者の経営悪化などにより、売掛金が回収できなくなるリスク（貸倒れ）が存在します。
資金繰りの悪化（販売側）: 売掛金の回収が遅れると、販売者自身の支払いに必要な資金が不足する可能性があります。
管理コスト: 多数の取引先に対する売掛金や買掛金の管理、請求書発行、入金確認などに手間とコストがかかります。
不正リスク: 不適切な管理が行われた場合、架空売上や不正な出金などのリスクが生じます。

リスク管理

掛取引における最大のデメリットである貸倒れリスクを回避するためには、適切なリスク管理が不可欠です。これには、取引開始前の「与信管理」が重要となります。取引先の信用力や財務状況を調査し、取引限度額や支払い条件を設定することで、回収不能となる可能性を低減します。

また、万が一に備えて、債権回収を確実にするための対策（例：担保設定、保証人、債権譲渡登記など）や、売掛債権の保証を行う保険（売掛債権保証保険）の利用も考えられます。さらに、回収が遅延した場合の督促や、必要に応じて法的な手続きを検討するなど、事後の対応策も準備しておく必要があります。

まとめ

掛取引は、現代ビジネスにおいて効率的かつ円滑な商取引を行うための重要な仕組みです。これにより、企業は煩雑な都度決済から解放され、取引量を増やし、継続的な顧客関係を築くことができます。しかし同時に、代金の未回収という信用リスクが常に伴います。そのため、掛取引を安全かつ効果的に活用するには、取引先の信用力を適切に評価し、厳格な債権・債務管理体制を構築・運用することが極めて重要となります。

もう一度検索