摩寿意善郎

摩寿意善郎（ますい よしろう）は、1911年1月23日に東京府麻布区で生まれ、1977年4月25日に66歳で亡くなった日本の美術史家です。東京芸術大学の名誉教授であり、特にルネサンス美術、中でもイタリア美術史の研究において、その名を広く知られています。


幼少期から青年期にかけて、摩寿意は麻布中学校を経て第一高等学校文科甲類に進学しました。一高時代に三谷隆正教授のブルクハルト「イタリア・ルネサンスの文化」の講義を受けたことが、彼のルネサンス美術史研究の原点となりました。1932年には京都帝国大学文学部に入学しますが、翌年には東京帝国大学へ転じ、1936年に美学美術史学科を卒業しました。卒業論文のテーマは「美術史の哲学的基礎」でした。

大学卒業後、摩寿意は都新聞（現在の東京新聞）に入社し、文化部で美術担当記者として活躍しました。在学中から参加していた同人誌『東大派』は、後に『潮流』、そして『日暦』と名称を変え、高見順や渋川驍といった作家たちと交流を深めました。

1937年に都新聞を退社した摩寿意は、創立されたばかりの日伊学会の主事に就任しました。同年10月にはイタリア国立ナポリ東洋学院日本学科の講師としてイタリアへ渡り、日本語を教える傍ら、イタリア美術の研究にも従事しました。1938年に帰国後、日伊学会の活動を再開し、1940年には日伊協会へと改組される中、引き続き主事を務めました。1941年からは『日伊文化研究』を発行し、佐々木基一や福永武彦らが編集に携わりました。

1942年には著書『サンドロ・ボッティチェルリ』を刊行。美術史に関する論稿や評論も多数発表しました。1946年からは文部省社会教育局で事務嘱託（常勤）として勤務し、芸術祭や全国巡回美術展の企画実施に携わりました。また同年からは東京音楽学校でイタリア語の非常勤講師も務め、1949年には東京芸術大学音楽学部教授に就任。その後、美術学部に移り、西洋美術史、特にイタリア美術史の講義を通じて多くの後進を指導しました。

1955年にはイタリア共和国から騎士勲章を授与され、ローマ大学の客員教授としてイタリアに滞在しました。1967年から1973年まで東京芸術大学美術学部長を務め、大学紛争や学部校舎の改築といった難題に取り組みました。1975年に定年退官し、名誉教授となりました。1973年と1976年には、東京芸術大学イタリア初期ルネサンス壁画学術調査団の団長として、アッシジのサン・フランチェスコ聖堂の調査研究を率いました。

摩寿意は日伊文化交流にも尽力し、戦後の日伊協会再発足に伴い、1950年に専務理事、1976年には副会長に就任しました。また、平凡社、角川書店、学習研究社、小学館など、数々の美術全集の編集委員や監修者としても活躍しました。

主な著書には『サンドロ・ボッティチェルリ』の他、『イタリア美術史論集』があります。また、『ルネッサンスのイタリア画家』や『人類の美術』シリーズの翻訳・監修も行いました。共編著としては、『原色版美術ライブラリー』や『世界美術全集』など、多くの美術関連書籍の出版に貢献しました。

摩寿意善郎は、研究者、教育者、文化交流者として、日本の美術史研究の発展に多大な貢献を果たした人物として、今もなお記憶されています。

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