故郷 (1972年の映画)

映画『故郷』の概要

映画『故郷』（こきょう）は、1972年に松竹によって製作・公開されました。山田洋次監督の手による本作は、民子三部作の第2作目であり、1970年に公開された『家族』、さらに1980年の『遙かなる山の呼び声』へと続く重要な作品です。

物語の背景

物語の舞台は、瀬戸内海に浮かぶ倉橋島です。この島で、夫婦の精一と民子は小型の砂利運搬船で石を運びながら生計を立てていました。しかし、時代が進むにつれ、経済成長の波が押し寄せ、彼らは自身の生活が脅かされていることに気づきます。特に、船のエンジンの不調や悪化する海の状況が加わり、夫婦は厳しい選択を迫られます。故郷を離れることは一大決心であり、父祖代々の地に対する悲しみと負担を抱えながらも、彼らは新たな未来を見据えます。

エンターテイメントとしての価値

山田洋次監督は、映画制作にあたり、実際に広島県倉橋島に長期間滞在し、地元の住民を多く登場させるなど、ドキュメンタリー風の手法を取り入れました。この姿勢により、作品はよりリアルな感情を観客に伝えることができました。さらに、本作はエンドクレジットロールを初めて横書きで使用した作品であり、技術的な革新も感じられます。

主要キャスト

本作には、倍賞千恵子や井川比佐志、笠智衆などの多彩なキャストが出演しています。特に倍賞は、民子役として地元の文化や情緒を見事に表現し、観客に深い印象を残します。精一役の井川は、懸命に生活を支える夫の姿を力強く演じ、笠はその父として存在感を放っています。

製作の裏側

本作の企画は、山田洋次監督が俳優の渥美清と共に旅行をした際に発想されました。彼らが広島の駅に降りた際、艀を使って島々を訪問し、その途中で見た景色がこの映画のインスピレーションとなりました。特に、石を満載した小型船の風景が印象に残ったことから、物語の核が成立したのです。このような観察から生まれたエピソードは、リアルな感情を描くことに大きく寄与しています。

ロケ地と映像美

ロケーションは広島県呉市の倉橋島に加え、主要なシーンが撮影された音戸大橋や広島市内も重要な舞台となっています。特に音戸の瀬戸の風景は、物語のテーマである故郷との別れを象徴しています。撮影に使用されたこれらの風景は、作品全体に独特の郷愁感を加味し、視覚的に驚きのある映像を提供しています。

映画『故郷』は、経済成長に影響された人々の心情を描いた、一つの時代を反映した感動的な作品です。映画は、個人の決断が家庭や地域にどのような影響を与えるのかを考えさせられる内容となっており、幅広い観客に共感を呼び起こしています。

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