教会旋法

教会旋法とは

教会旋法（きょうかいせんぽう、英語：gregorian mode）は、グレゴリオ聖歌の分類に用いられる旋法です。この体系は、グレゴリオ聖歌の作曲よりも後に、ビザンティンのオクトエコスを基盤として成立しました。そのため、実際のグレゴリオ聖歌は教会旋法の理論に完全に合致するものではなく、分類が難しい聖歌も存在します。

8〜9世紀頃から少なくとも16世紀頃まで、西洋音楽理論の基礎として重要な役割を果たしましたが、機能和声の発達により、長調・短調の組織に取って代わられました。しかし、19世紀末以降、新たな音楽の可能性を追求する中で、教会旋法が再び注目され、現代音楽においても利用されています。

教会旋法の一覧

教会旋法は、終止音と音域によって分類されます。まず、終止音によって4つに分類され、それぞれが正格旋法と変格旋法の2つに分けられます。変格旋法には接頭辞「ヒポ」が付きます。

正格旋法

第一旋法：ドリア旋法（終止音：レ、朗唱音：ラ）
第三旋法：フリギア旋法（終止音：ミ、朗唱音：ド）
第五旋法：リディア旋法（終止音：ファ、朗唱音：ド）
第七旋法：ミクソリディア旋法（終止音：ソ、朗唱音：レ）

変格旋法

第二旋法：ヒポドリア旋法（終止音：レ、朗唱音：ファ）
第四旋法：ヒポフリギア旋法（終止音：ミ、朗唱音：ソ）
第六旋法：ヒポリディア旋法（終止音：ファ、朗唱音：ラ）
第八旋法：ヒポミクソリディア旋法（終止音：ソ、朗唱音：ド）

後に追加された旋法

第九旋法：エオリア旋法（終止音：ラ、朗唱音：ミ）
第十一旋法：イオニア旋法（終止音：ド、朗唱音：ソ）
第十旋法：ヒポエオリア旋法（終止音：ラ、朗唱音：ド）
第十二旋法：ヒポイオニア旋法（終止音：ド、朗唱音：ミ）

理論上存在するが使われなかった旋法

ロクリア旋法（終止音：シ、朗唱音：ファ）
ヒポロクリア旋法（終止音：シ、朗唱音：レ）


正格旋法では朗唱音が終止音の5度上に、変格旋法では3度上にありますが、終止音の5度上または3度上がシになる場合は、朗唱音はドになります。これは、教会旋法ではシを避ける習慣があったためです。

初期のオクトエコスには、ラ、シ、ドを終止音とする旋法がなかったため、教会旋法にも同様の旋法がありませんでした。しかし、後にエオリア旋法、ロクリア旋法、イオニア旋法が追加されました。エオリア旋法とイオニア旋法はそれぞれ変質し、現在の短音階・長音階へと繋がっていますが、考え方は異なり、同一ではありません。

ロクリア旋法は、終止音がシであること、終止音と朗唱音の音程が減5度であることから、実際の作品で使用されることはありませんでした。その変格であるヒポロクリア旋法も同様です。

各旋法の名称は古代ギリシアの旋法と同じですが、両者は全く異なるものです。教会音楽では番号が用いられますが、現代の音楽理論の教科書ではギリシア名が用いられることが多いです。

現代における教会旋法の利用

現代音楽、特にジャズでは、1960年代頃から教会旋法が利用されています。主な利用法は以下の2つです。

1. アベイラブル・ノート・スケールとしての利用：コードにおける利用可能な音のスケールとして活用。
2. モード（旋法）を調として捉える利用：各旋法の主音と特性音を重視し、フレージングや和声構成に利用。

現代で用いられる主な教会旋法は、以下の通りです。

ドリアン（Dorian）
フリジアン（Phrygian）
リディアン（Lydian）
ミクソリディアン（Mixolydian）
エオリアン（Aeolian）
ロクリアン（Locrian）

現代において教会旋法が用いられるのは、従来の長調・短調の音楽からの脱却を目的としています。そのため、長調の印象が強いアイオニアン（Ionian）はあまり用いられません。

まとめ

教会旋法は、グレゴリオ聖歌の分類に用いられた歴史的な旋法であり、現代音楽においても重要な役割を果たしています。その独特な響きと構造は、音楽表現の幅を広げる上で欠かせない要素となっています。

脚注

関連項目

旋法

外部リンク

MAB音楽資料室 教会旋法

もう一度検索