教員免許更新制

教員免許更新制（きょういんめんきょこうしんせい）

教員免許更新制とは、教育職員として教壇に立つために必要な免許状に有効期間を設け、その期間が満了する前に定められた講習を受講・修了しなければ免許の効力を失うとする制度のことです。国際的に見ると、教員資格が生涯有効な国がある一方で、日本のように有効期限を設ける国もあり、その扱いはさまざまです。

この制度の主なねらいは、教員が常に最新の知識や技能を習得し、教育実践能力を高める機会を提供することで、教員の全体的な質を維持・向上させる点にありました。しかしその一方で、更新手続きや講習受講にかかる時間的・金銭的な負担増や、それが教育現場での多忙化を招き、結果的に児童生徒と向き合う時間が減少するといった課題も指摘されていました。

日本における導入の経緯

日本で教員免許の有効期限化が初めて提言されたのは、1983年の自民党文教制度調査会による報告書に遡ります。当時は無期限だった教員免許状に見直しが求められました。

2000年代に入ると、いわゆる学力低下論争や教員の質に関する議論が活発化します。特に、一部の教員が十分な専門知識を持っていないのではないか、といった事例が社会的な問題として取り上げられるようになりました。こうした背景のもと、2007年1月には教育再生会議が不適格教員の排除も視野に入れた免許更新制の導入を提言します。この提言を受け、同年6月の法改正により、2009年4月から教員免許更新制が施行されました。

ただし、制度導入にあたっての中央教育審議会での議論を経て、制度の正式な目的は当初強調された「不適格教員の排除」から「教員の資質能力向上」へと変更されました。文部科学省も、この制度は教員を排除するためのものではない、との立場を示しました。

制度運用下の状況と問題点

制度導入後も、更新制に対する議論は続きました。2009年の政権交代後も制度の目的は「教員の能力向上」のままで推移します。

制度運用が始まると、更新講習の未受講により免許を失効する教員が少なからず存在することが明らかになりました。中には手続きを失念していた、いわゆる「うっかり失効」といったケースもありました。免許が失効すれば、その教員は教壇に立つことができません。これにより、直接的な責任のない児童生徒に影響が及ぶ可能性も指摘されました。

また、制度の運用上、いくつかの問題点が浮上しました。

教員の負担増: 更新講習の受講料や、受講に必要な時間確保は、原則として教員個人の負担となりました。教育現場の多忙化が進む中で、講習受講はさらなる負担となりました。
受講資格の限定: 更新講習を受講できるのは、現職の教員やこれから教員になる予定のある者に限られていました。このため、教員経験のない民間企業等で働く社会人や、育児・介護等で一時的に教育現場を離れていた人々が、有効期間の過ぎた免許を更新して教職に復帰することが困難となるケースがありました。これは、社会経験を持つ多様な人材を学校現場に積極的に登用するという時代の要請に反する側面も持っていました。
* 手続きの複雑さ: 更新手続きや講習受講の証明に関する手続きが煩雑で、自治体によって運用が異なる場合もありました。

制度の廃止とその後

こうした制度に対する批判や、教員志願者の減少といった教育現場の実情を踏まえ、2019年に文部科学大臣は教員免許更新制の抜本的な見直しを諮問しました。現職教員へのアンケートでも、更新講習が教育現場で「役立っていない」という回答が少なくありませんでした。

議論の結果、文部科学省は2021年8月に教員免許更新制を事実上廃止する方針を決定しました。この決定は「制度の廃止」ではなく「発展的解消」と位置づけられ、教員の資質向上に向けた新たな研修体制への移行を目指すことが強調されました。

2022年5月には関連法案が成立し、同年7月1日をもって教員免許更新制は発展的に解消されました。これにより、2022年7月1日以降に新たに授与される教員免許状は有効期限のない生涯有効なものとなりました。

制度廃止時に有効な旧免許状（2009年3月31日以前に授与された無期限の免許状）を持つ現職教員でない人々の免許状も、手続きなく生涯有効となりました。ただし、旧免許状を持つ現職教員で修了確認期限を超過していた場合や、更新制の期間中に授与された新免許状（有効期限付き）を持つ人で有効期限を超過していた場合は、免許は失効しています。この場合、都道府県教育委員会に再授与の手続きを行うことで、再び有効期限のない免許状を取得することが可能です。

今後は、教育委員会が教員の研修履歴を管理するシステムを導入するなど、教員一人ひとりの学びや研修を支援する仕組みづくりが進められています。教員免許更新制は短命に終わった制度でしたが、教員の資質向上や研修のあり方、さらには多様な人材の活用といった点で、教育界に多くの課題と議論を残しました。

もう一度検索