教皇の辞任

教皇の辞任（Renuntiatio）

教皇の辞任とは、カトリック教会の現職教皇が自らの意思でその地位を退くことを指します。通常、教皇の在位期間は選出から死去までとされており、辞任は非常に稀な出来事です。

概要

21世紀以前には、歴史的必然性から辞任した教皇はわずか5名であり、いずれも10世紀から15世紀の人物です。3世紀から11世紀にかけても辞任したとされる教皇がいますが、その主張には議論があります。また、「暗黒時代」には、政治的・軍事的な権力によって罷免された教皇も存在します。

教皇庁の公式教皇一覧は、教皇自身が罷免を認めた場合は合法的な辞任とみなし、認めない場合はそうみなしません。教会法は教皇至上主義の立場から、教皇の非自発的な辞任を認めない傾向にあります。

近年では、2013年にベネディクト16世が辞任し、グレゴリウス12世以来の辞任となりました。教皇の辞任を「退位」と表現することがありますが、教会の公式文書では「辞任」が用いられます。

手続き

1983年の新教会法典第332条(2)には、教皇の辞任について以下のように規定されています。

ローマ教皇がその職務を有効に辞任するためには、辞任が自由になされ、かつ適切に表明されることが必要であるが、何者かによって受け入れられる必要はない。

この規定は、1917年の旧教会法典第221条に対応しています。どちらの教会法典にも、教皇が辞任を特定の人物に宣言する必要はないと明記されています。

歴史

カトリック百科事典には、ポンティアヌス、マルケリヌス、リベリウスの辞任が記録されています。また、ヨハネス18世が1009年に辞任し、修道士として生涯を終えたという記録もあります。

暗黒時代には、政治的・軍事的な権力によって罷免された教皇も存在します。ヨハネス10世、ヨハネス12世、レオ8世、ベネディクトゥス5世などがその例です。

歴史的に疑いの余地がない最初の教皇の辞任は、ベネディクトゥス9世によるものです。彼は1044年に罷免され、翌年に復位、その後1045年に辞任しました。また、グレゴリウス6世は、ベネディクトゥス9世との協定が聖職売買にあたるとみなされ、1046年に辞任しました。

1294年には、ケレスティヌス5世が辞任しました。彼は教皇の辞任を認める法令を発布し、自身もそれに従って辞任しました。グレゴリウス12世は、1415年に教会大分裂の収束のために辞任しました。

2013年2月11日、バチカンはベネディクト16世が高齢による体力低下を理由に辞任することを発表しました。辞任は2月28日に実施されました。

条件付きの辞任

過去には、条件付きの辞任文書が作成された例もあります。ピウス7世は、ナポレオンに捕らえられた場合に有効となる辞任文書に署名しました。ピウス12世は、ナチスに拘束された場合に辞任するものとする文書を作成しました。ヨハネ・パウロ2世は、職務遂行が困難な病気や欠陥がある場合に辞任するという書簡を首席枢機卿に送りました。

教皇位剥奪

教会法には、健康上の理由で教皇位を剥奪する規定はありません。教区司教や枢機卿には年齢による引退規定がありますが、教皇には適用されません。ヨハネ・パウロ2世の晩年には健康上の理由による辞任が噂されましたが、バチカンは一貫して否定していました。

関連項目

使徒座空位
名誉教皇

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