教皇ユリウス2世の肖像

教皇ユリウス2世の肖像

『教皇ユリウス2世の肖像』は、イタリアの著名な画家ラファエロ・サンツィオによって1511年に制作された肖像画であり、盛期ルネサンスの代表的な作品です。この絵画は、第216代ローマ教皇ユリウス2世（在位1503年-1513年）を描いており、その表現は教皇の人物像に新たなスタイルをもたらしました。

この肖像画は、教皇ユリウス2世の死後、多くの芸術家や観衆に影響を与えました。特に、肖像画が最初に展示されたサンタ・マリア・デル・ポポロ教会では、重要な祭りの際に特別に掲げられ多くの参観者が訪れました。後に、著名な美術評論家ジョルジョ・ヴァザーリは、この作品を見た人々を強く惹きつけるほど生々しく、まるで教皇自身が生き返ったかのようだと評しています。

この肖像画の制作時期については、ユリウス2世がボローニャの戦争での損失を悼むために髭を伸ばしていた時期、すなわち1511年6月から1512年3月の間に描かれたと考えられています。ラファエロは、ユリウス2世が髭を生やしている姿を心に留め、彼の人間性や内面的な葛藤を表現しました。従来の教皇肖像とは異なり、斜めの視点から描かれたこの作品は、観る者に対して新鮮な印象を与え、後の芸術家たちが同様のスタイルを模倣する契機となりました。セバスティアーノ・デル・ピオンボやティツィアーノ・ヴェチェッリオなど、多くの画家がこのスタイルを採用し、教皇の肖像画のスタイルを約2世紀にわたって確立しました。

背景には、青と金の織物が描かれ、この色彩はユリウス2世の出身であるデッラ・ローヴェレ家の紋章が含まれています。特におどろくべきは、描かれた椅子の装飾や、教皇の手にした宝石の指輪に象徴される豪華さで、ユリウス2世が自身の地位や権威を体現していることを示しています。

肖像画の来歴も非常に興味深いものです。完成後、一時的にサンタ・マリア・デル・ポポロ教会に所蔵され、多数の訪問者がその姿を見に集まりました。その後、この肖像画は複数の個人コレクションを経て、ボルゲーゼ・コレクションに加わり、最終的にはロンドンのナショナル・ギャラリーに収蔵されました。この過程で、多くの複製が作られ、その中でもいくつかがオリジナルに近いとされます。

1970年には、ナショナル・ギャラリーにて行われた科学的調査によって、ロンドン版がラファエロ自身の手によるオリジナルであることが証明され、賀状を持つ同一の目録番号が発見されました。これにより、ロンドン版が正式にラファエルのオリジナルと見なされるようになり、多くの美術愛好家や研究者の間でその作品はより一層評価されています。

アートの歴史において、教皇ユリウス2世の肖像は、そのスタイルや技術において重要な転換点を示しており、ラファエロの優れた才能を象徴する作品と言えるでしょう。この絵画は、今もなお観る者に強い印象を残し、ルネサンスの偉大な遺産の一部として語り継がれています。これからも、様々な視点から多くの人々に感動を与え続けることでしょう。

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