数学原論

数学原論（すうがくげんろん）

『数学原論』（仏: Éléments de mathématique）は、架空の数学者集団であるニコラ・ブルバキによって執筆された、数学に関する広範な専門書シリーズです。

書名の意味

このシリーズの最も特徴的な点の一つは、フランス語の書名「Éléments de mathématique」が、通常用いられる複数形「mathématiques」ではなく、単数形「mathématique」となっていることです。これは意図的なものであり、ブルバキ自身の、「数学は統一された単一の学問分野である」という強い信念を表現しています。対照的に、ブルバキによる別の著作『数学史』（Éléments d'histoire des mathématiques）では複数形が使われており、これは、構造の現代的な概念によって統一される以前の数学が、多様で分散した分野の集合体であったことを示唆していると解釈されています。

構成と内容

『数学原論』は、集合論、代数、位相、積分など、2016年現在で11の部門から構成されています。各部門はさらに複数の章に細分化されています。全体のうち、最初の6部門（集合論、代数、位相、実一変数関数、位相線型空間、積分）は論理的な順序で構成されており、後続の部門はこれらの基礎の上に築かれていますが、特定の順序には従っていません。

出版の歴史

本書の出版は、エルマン書店から1939年に始まりました。当初は小冊子として刊行され、後に合本化されました。編集者との意見の相違から、出版元は1970年代にCCLS、1980年代にはマソン書店へと移行しました。2006年からは、シュプリンガー・フェアラーク社がこのシリーズの全分冊の再出版を手掛けており、過去に絶版となっていた多くの巻が入手可能となりました。最も新しい部門の一つである「代数的位相幾何学」の最初の4章も、2016年にシュプリンガー社から出版されています。

本書は1939年の最初の刊行以来、断続的に出版が続けられていますが、全体としてはまだ完了しておらず、現在も未完のプロジェクトです。初版の一部はオンラインでも利用可能です。

和訳について

日本では、東京図書からこのシリーズの和訳が出版されましたが、1987年に最後のセット販売が行われた後、残念ながら2025年現在、全冊が絶版となっています。ただし、『数学史』については和訳が出版されており、後にちくま学芸文庫版も刊行されています。

もう一度検索