文世光事件

文世光事件

文世光事件（ムン・セグァンじけん）は、1974年8月15日に韓国の大統領夫人、陸英修が在日韓国人の文世光に射殺された悲劇的な事件です。この事件は韓国の光復節の祝賀行事の際に発生し、朴正煕大統領夫妻が出席していました。文世光の襲撃により、彼が狙った朴大統領だけでなく、狙撃による流れ弾が女子高生の張峰華（当時17歳）に命中し、彼女も命を落とすという二重の悲劇が起こりました。

詳細な経緯

文世光は、学生時代から北朝鮮の影響を受け、「土台人」としての活動を始め、朴大統領暗殺を計画していました。彼は1973年に大阪湾の北朝鮮の船で、暗殺の指令を受けたことがきっかけです。何度か暗殺を試みるも失敗し、最終的には香港で拳銃の調達に失敗。その後、1974年7月に大阪市で拳銃を盗み、偽造ビザやパスポートを手に入れる準備を進めました。

文世光は8月6日に韓国に入国し、式典当日の8月15日、正装をして高級車を借り、何事もなく国立劇場に潜入しました。彼は特別招待客として警備をすり抜け、式典中に朴大統領が演説を始めたタイミングで襲撃を行いました。最初の発砲は誤って自身を負傷し、その後朴大統領を狙って2発を発砲しますが、いずれも成功しませんでした。しかし、4発目の弾が流れ弾となり、椅子に座っていた陸夫人の脊髄を貫通したのです。陸夫人は搬送先の病院で手術を受けるも亡くなり、その姿をCBSのカメラクルーが撮影していました。

事件の波紋

事件の影響は、韓国国内のみならず日本との関係にも及びました。朴大統領は、陸夫人が重傷を負い詳細を知らされながらも、毅然と演説を続ける姿を見せました。しかし、式典終了後に病院で彼女の死を告げられ、朴大統領は声を上げて泣き崩れました。この事件は日韓関係を一層冷え込ませ、韓国政府は日本側に責任を問う形となりました。

文世光は逮捕され、初公判は1974年10月7日に開かれ、彼は犯行を認めました。その後、死刑判決を受けた彼は、自身の行為を悔い、心から謝罪する最後の言葉を遺しました。事件の捜査過程では、在日韓国人団体との関与が指摘され、事件発生からの捜査が続けられましたが、韓日間での対立は深まりました。

日韓の関係への影響

事件は、日韓の外交関係に深刻な影響を及ぼしました。朴大統領は「日本が真の友邦か？」と問い、両国間の信頼が揺らいだのです。その後の賠償問題や謝罪を巡る議論は続き、両国関係は悪化の一途をたどりました。

この事件を受けて韓国は日本側に朝鮮総連の調査を求めるなど厳しい姿勢を示し、それに対し日本政府は慎重に対応を迫られました。日韓間の交流や協力は困難を極め、その後の歴史の流れにおいてもこの事件は一つの転機として位置付けられています。文世光事件は、単なる暗殺事件にとどまらず、二国間の複雑な政治的背景を反映した歴史的な出来事であったといえるでしょう。

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