文書提出命令

文書提出命令とは

民事訴訟手続を進める上で、裁判に必要な証拠、特に訴訟当事者や第三者が所持する文書の存在が不可欠となる場合があります。こうした状況において、裁判所が特定の文書の提出を命じる手続が「文書提出命令」です。これは、民事訴訟法に定められた裁判上の開示請求手続の一つであり、訴訟の公平性を保ち、真実発見を助ける上で極めて重要な役割を果たします。

民事訴訟における証拠開示や収集の手続としては、この文書提出命令のほかに、将来の証拠を使用することが困難になる恐れがある場合に行われる証拠保全、当事者本人に対して質問を行う当事者照会、官庁や企業などに保管されている文書の送付を嘱託する文書送付の嘱託などがあります。文書提出命令は、特に文書という形態の証拠を強制的に収集するための強力な手段と言えます。

申立ての方法

文書提出命令を求めるには、訴訟の一方当事者が裁判所に対し申立てを行う必要があります。申立ては書面で行われ、その書面には対象となる文書を特定するための「文書の表示」、その文書が持つ「文書の趣旨（内容や性質）」、文書を「所持している者」の名前、その文書によってどのような「事実を証明したいのか」、そしてなぜ所持者に「提出義務があるのか」という根拠を明確に記載することが求められます。

文書提出義務の範囲

現在の民事訴訟法では、文書提出義務は原則として広く認められており、「一般義務」とされています。これは、法律に定められた特定の除外事由に該当しない限り、原則として文書提出の義務が課されるという考え方です。

提出義務の対象となる文書には、申立てをした当事者が訴訟において引用した文書、申立人が法律上その引渡しや閲覧を請求する権利を持つ文書、申立人自身の利益に関わる文書や、訴訟で争われている法律関係に関する文書などがあります。これらのほかに、前述の一般義務として提出が求められる文書が広く含まれます。

一方で、国家の安全に関わる公務の秘密が記載された文書、文書の作成者や所持者が専ら自己利用のために作成した文書、刑事事件や少年事件に関する記録などについては、提出義務が免除される場合があります。

提出義務があるかどうかの判断が難しい場合、特に秘密性が問題となる文書については、裁判所が非公開の審理（インカメラ審理といいます。ラテン語で「密室で」という意味に由来し、関係者以外を排除して行われる秘密の手続を指します）において、実際にその文書を提示させて内容を確認した上で判断を行うことができます。

裁判所の判断と不服申立て

文書提出命令の申立てがなされると、裁判所はその申立てについて判断を行わなければなりません。裁判所による判断は「決定」という形式で示されます。

命令が出なかった場合

裁判所が申立てを却下する決定を出した場合、申立てを行った当事者や、もし文書の所持者が申立てに異議を唱えていた場合はその所持者は、この決定に対して「即時抗告」という方法で不服を申し立てることができます。

しかし、注意が必要なのは、裁判所が文書提出義務があると認められる文書であっても、それを証拠として調べる必要がないと判断して申立てを却下する場合があることです。さらに、最高裁判所はかつて、このような「証拠調べの必要性がない」ことを理由とした却下決定に対する抗告を認めないという考え方を判例（傍論）として示したことがあります。これは、証拠の内容を十分に確認しないままその必要性を否定し、さらにその判断に対する不服申立ての機会を奪うことになるとして、訴訟当事者の権利（憲法が保障する審級保障などとの関連で議論されることがあります）を侵害するのではないかという問題提起がなされ、特別抗告（判例違憲訴訟）として争われるケースも見られます。

第1審で証拠調べの必要性がないとして却下された場合でも、控訴審（続審）で再度同じ申立てを行うことや、控訴審で却下された判断について、上告審で原審の裁量権の逸脱や法令違反として争うことも考えられます。

命令が出た場合

裁判所が文書提出命令を発した場合、所持者にはその文書を提出する義務が生じます。

もし文書の所持者が訴訟の当事者であり、正当な理由なくこの命令に従わない場合、民事訴訟法は、申立てをした当事者の主張に関連する事実を、裁判所が真実であるとみなすことができるという強力な効果を定めています。

文書の所持者が訴訟の当事者ではなく第三者である場合、裁判所は命令を発する前に、その第三者に対して意見を述べる機会（審尋）を与えなければなりません。第三者が正当な理由なく命令に従わない場合は、２０万円以下の過料に処される可能性があります。

結論

文書提出命令は、民事訴訟において、隠された文書を開示させ、公平な裁判を実現するために不可欠な手続です。その運用には、提出義務の範囲、秘密保護とのバランス、そして裁判所の裁量による却下判断とその不服申立てに関する複雑な問題が含まれており、常にその適正な運用が求められています。

文書提出命令