文書送付嘱託

文書送付嘱託(ぶんしょそうふしょくたく)



文書送付嘱託とは、日本の民事訴訟手続において、当事者が訴訟の証拠として提出したいと考えている文書が、自分自身や相手方ではなく、第三者や官公庁などが所持している場合に、その文書の送付を裁判所に依頼し、裁判所を通じて文書を取り寄せるための手続きです。これは、証拠となる文書書証)を裁判所に提出させるための方法の一つとして、民事訴訟法に定められています(民事訴訟法第226条)。

目的と役割



民事訴訟では、当事者は自らの主張を裏付けるために様々な証拠を提出しますが、特に文書は重要な証拠(書証)となることが多いです。しかし、訴訟に必要な文書が必ずしも自分の手元にあるとは限りません。相手方が持っている場合や、全く関係のない第三者が持っている場合、あるいは公的機関が保管している場合などがあります。

当事者自身がその文書を容易に入手できない場合に、裁判所の権限を利用して文書を取り寄せる手段として、文書送付嘱託が活用されます。これにより、当事者は自力では困難な文書を証拠として裁判所に提出することが可能となり、公平な事実認定に繋がります。

手続きの流れ



文書送付嘱託の手続きは、訴訟の当事者が、証拠として必要な文書を特定し、その文書が誰によって所持されているかを明らかにした上で、裁判所に対して「文書送付嘱託の申立て」を行うことから始まります(民事訴訟法第226条本文)。

申立てを受けた裁判所は、その必要性や相当性を判断し、申立てを認めた場合、文書を所持している個人、法人、官公庁などの「文書所持者」に対し、指定した文書裁判所に送付するよう「嘱託」を行います。この嘱託を受けた文書所持者は、原則として文書裁判所に送付する義務を負います。

利用できない場合



ただし、この手続きは万能ではありません。法令の規定により、当事者自身が公的機関などに請求すれば、文書の正本や謄本などの交付を受けることができる場合は、原則として文書送付嘱託の申立てをすることはできません(民事訴訟法第226条ただし書)。例えば、不動産登記簿謄本や戸籍謄本などは、所定の手続きを経て誰でも取得することができるため、これらの文書が必要な場合は、当事者自身が取得して証拠として提出する必要があります。

文書受領後の扱い



嘱託により文書裁判所に送付されると、理論的にはその文書書証として裁判所に提出されたことになります。しかし、実務上は、送付されてきた文書の中から、申立人が証拠として特に裁判官に見てほしい部分を選び出し、改めて書証として提出し直すという運用が行われることが少なくありません。

これは、送付された文書が膨大であったり、訴訟とは無関係な情報が含まれていたりする場合に、証拠として提出する範囲を明確にし、審理の効率化を図るためといった理由によるものと考えられます。

関連する手続き



書証を収集するための方法としては、この文書送付嘱託の他に、当事者が自ら所持する文書を提出する一般的な「書証の申出」や、相手方や第三者が所持する文書について、裁判所が提出を「命令」する「文書提出命令」(民事訴訟法第220条以下)などがあります。

文書送付嘱託と文書提出命令は、いずれも当事者以外の者が所持する文書を取り寄せる手続きですが、嘱託は公的機関などへの依頼の性質が強い場合が多く、命令はより強い提出義務を課すという違いがあります(厳密には嘱託にも提出義務を伴う場合があります)。これらの手続きは、訴訟における立証活動を適切に行うために重要な手段となります。

参考文献として、民事訴訟法に関する専門書や講義録などが挙げられます。

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