書証

書証とは

「書証（しょしょう）」とは、日本の訴訟手続において、文書を証拠として提出し、裁判官がこれを読むことによって、そこに記された内容や文書そのものの存在を事実認定の判断材料とする証拠方法の一種です。主に民事訴訟で争いのある事実を証明するために用いられますが、刑事訴訟においても重要な役割を果たします。本項目では、特に民事訴訟における書証を中心に解説します。

民事訴訟における書証

民事訴訟において書証は、当事者間で意見が対立する事実を法廷で明らかにするための証拠調べの一つです。具体的には、裁判所が提出された文書を実際に見て、そこに書かれている情報を証拠として採用することを指します。また、実務においては、証拠として提出される文書そのものも「書証」と呼ぶことがあります。書類だけでなく、図面、写真、録音データ、映像データなど、情報が固定された媒体で文書に準じるもの（準文書）も、書証と同様の手続で取り扱われます。

刑事訴訟における書証

刑事訴訟における書証は、文書の存在そのものや、その記載内容を裁判の判断材料とする証拠方法です。例えば、捜査機関が作成した供述調書や捜査報告書などがこれにあたります。刑事訴訟では、書面に記載された内容が証拠となる「証拠書類」と、書面そのものが証拠となる「証拠物たる書面」を区別します。これらの証拠調べの方法は異なり、証拠書類は法廷での朗読で済みますが、証拠物たる書面は朗読に加えて現物を提示する必要があります。

書証となる文書の種類

書証として提出される文書には様々な種類があり、その作成方法、記載内容、作成者などによって分類されます。

作成方法による分類

原本（げんぽん）: 特定の事柄を記録した文書の、最初に作成されたオリジナルです。
謄本（とうほん）: 原本の内容をそっくりそのまま全て写し取った文書です。
認証ある謄本（にんしょうあるとうほん）: 法令で定められた権限を持つ者が、原本の正確な写しであることを証明（認証）した謄本です。通常、「謄本」と言う場合は、この認証ある謄本を指す慣習があります。
正本（せいほん）: 公的な証明権限を持つ者が、特に原本と同等の法的効力を持つものとして認証した謄本です。法律上、原本と同様に取り扱われます。
副本（ふくほん）: 正本などを作成する際に、控えとして作られる文書です。
写し（うつし）: 法令上の権限を持つ者による認証を受けていない謄本のことです。認証ある謄本と区別するため、「認証のない謄本」と呼ばれることもあります。
抄本（しょうほん）: 原本の内容の一部を抜き出して写した文書で、権限のある者がそれが原本の一部であることを証明したものです。

記録内容による分類

処分証書（しょぶんしょうしょ）: 契約書や遺言書、手形のように、その書面そのものが法律上の行為を成立させる目的で作成された文書です。
報告証書（ほうこくしょうしょ）: 処分証書以外の、様々な事実や出来事を記録・報告するために作成された文書です。帳簿、領収証、診断書、日記などが含まれます。

作成者による分類

公文書（こうぶんしょ）: 公務員がその職務上の権限に基づいて作成した文書です。
* 私文書（しぶんしょ）: 公文書以外の、個人や私的な組織が作成した文書です。

文書の証拠としての価値

書証が事実認定に利用されるためには、「形式的証拠力」と「実質的証拠力」という二つの側面が考慮されます。

形式的証拠力

これは、提出された文書が本当に特定の人物の意思に基づいて作成されたものであるか、つまり偽造でないかという「文書の成立の真実性」を指します。文書が真正に成立したと認められなければ、その内容を証拠として採用することはできません。

公務員が職務上作成した公文書は、原則として真正に成立したものと推定されます。一方、個人や私的な組織が作成した私文書については、その文書に本人の署名や押印がある場合、真正に成立したと推定されます。さらに、判例では、文書に押された印影が本人の印鑑によるものである場合、その印鑑は本人の意思で押されたものと推定され、その結果、文書全体も本人の意思に基づいて作成されたものと推定される、という段階的な推定が行われます。これを「二段の推定」と呼びます。この推定があるため、例えば他人が勝手に自分の印鑑を使って文書を作成した場合でも、「自分の意思ではなかった」と証明するには、この二段の推定を覆すための難しい立証が必要になることが多いです。

実質的証拠力

文書が真正に成立したと認められた後、その文書の内容がどの程度信用できるか、そして証明しようとする事実とどの程度関連があるかという「内容の信用性や証明力」を実質的証拠力といいます。形式的に成立が認められたからといって、その内容が必ずしも真実であるとは限りません。書証の実質的証拠力は、裁判官が他の証拠や弁論の内容と照らし合わせながら、自身の自由な判断（自由心証主義）に基づいて評価します。

書証の調べ方・手続

書証を裁判所に提出し、証拠調べを行う手続はいくつかの方法があります。

自分で文書を所持している場合は、その文書を裁判所に提出します。提出された文書には、原告側からのものは「甲号証」、被告側からのものは「乙号証」といったように、提出者を示す記号と連続した番号が付けられます。複数の被告やその他の当事者がいる場合は、「丙号証」「丁号証」なども使われます。

一方、自分で文書を所持していない場合は、その文書を持っている相手方に対し、文書を提出するよう裁判所に命じてもらう「文書提出命令」の申立てをしたり、文書を所持する第三者（官公庁や病院など）に、その文書を裁判所に送るよう依頼する「文書送付嘱託」の申立てを行います。

証拠調べは原則として裁判の主な期日である口頭弁論で行われますが、書証については、弁論準備手続の期日でも行うことができます。

書証は、訴訟における事実認定の根幹をなす重要な証拠方法であり、その種類、証拠力、手続を理解することは、裁判を進める上で非常に重要です。

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