文武二道万石通

『文武二道万石通』の概要と背景

『文武二道万石通』は、黄表紙の作品の一つで、全三冊からなります。天明8年（1788年）に刊行されたこの作品は、朋誠堂喜三二が著し、喜多川行麿が画を担当しました。作品は、寛政の改革を背景に、当時の世相を風刺しています。大変好評を博しましたが、幕府によって絶版という厳しい処分を受けることとなりました。

あらすじ

物語の舞台は鎌倉幕府の時代。源頼朝は重臣の畠山重忠を呼び集め、武士たちの力量を「文」と「武」に分けて判別するよう命じます。重忠は「ぬらくら武士」と呼ばれる、どちらにも属さない武士たちがいることを指摘します。彼は富士山の人穴に不老不死の薬があると嘘をつき、大小名たちをその場所に誘導します。その結果、武士たちは「文」と「武」のいずれにも分類されていくものの、特に「ぬらくら武士」として数多くの者が集まっていることが判明します。

重忠は、この「ぬらくら武士」を「文」と「武」に振り分ける計画を実行に移すため、休暇を与えます。箱根の七湯で各自の行動を観察し、彼らがどのように楽しむのかを見ます。その中で、湯元の湯で文人風の趣味を楽しむ武士たちや、堂ヶ島の湯では乱舞や釣りを楽しむ者たちの姿が描かれています。一方で、底倉の湯では遊びに興じ、芦の湯では盗賊に襲われるなど、さまざまなコミカルな場面が展開されます。

大磯の廓遊び

大小名たちは箱根七湯から大磯に移動しますが、重忠の策略により帰れなくなってしまいます。そこで、彼らは廓の遊びにふけり、想定外の高額な遊興費に困惑します。彼らは池を手水鉢と見立てて「無間の鐘」を撞くことで金を得ようとします。そこから数多の笑いを誘発する場面が展開されます。この一連の出来事は、重忠の巧妙な計略により、彼らを「文」と「武」に分類するための圧倒的なシニカルな風刺となっています。

バックグラウンド

江戸幕府の八代将軍徳川吉宗の後、九代家重を経て、十代家治の時代には老中田沼意次による幕政が行われ、政治腐敗が進行しました。これに伴う綱紀粛正の動きが寛政の改革として表れます。このような時代背景の中で刊行された『文武二道万石通』は、「万石通」という言葉が当時の農具を指していることからも、当時の文化や価値観を反映しています。

この作品では、能楽や劇、時事問題を鋭く突く文体が特徴で、登場人物たちの衣服には暗示的な文字があしらわれ、特定の人々を想起させる工夫がなされています。また、富士信仰や武士の自堕落ぶりも描かれ、当時の社会を鋭く映し出しています。

幕府による絶版

『文武二道万石通』は、その風刺性や世相を描いた内容が当局にとって問題視され、最終的には絶版となりました。その流行は非常に大きかったため、幕府も慎重に対処しざるを得なかったのです。以降、朋誠堂喜三二は再び黄表紙を著すことはありませんでした。作品の新たな発見や議論が続く中、彼の作品は依然として歴史的な価値を持ち、研究の対象となっています。

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