文革墓群

文化大革命期、中国各地で発生した激しい武力衝突、いわゆる「武闘」。その犠牲者を埋葬した集団墓地は、かつて全国各地に存在しましたが、そのほとんどは文革終結後に取り壊されました。そうした中で、中国重慶市沙坪垻区にある沙坪公園内に、当時埋葬された人々の墓が唯一現存しています。これが「文革墓群」と呼ばれる場所であり、正式には「紅衛兵墓園」という名称で重慶市級文物保護単位に指定されています。

成立の背景

重慶での武闘は、1966年12月に革命勢力である「造反派」と、既存の体制や幹部を擁護する「保皇派」の間で始まったとされます。この段階ではまだ犠牲者は出ませんでしたが、1967年2月には造反派内部が、権力掌握後の分配や旧幹部の評価などを巡って分裂しました。これにより、「八・一五派」と「反到底派」という二つの主要な派閥が形成され、互いを毛沢東思想の敵と見なすようになりました。対立は次第にエスカレートし、当初は槍や刀といった原始的な武器（冷兵器）が使われていましたが、1967年6月に初の死者が出たとされています。同年7月には自動小銃などの近代的な武器（熱兵器）が登場し、犠牲者が増加しました。重慶には国民党時代や共産党政権下で多くの兵器工場が移転・集中していたため、武器の調達は容易でした。武闘が最も激化した1967年8月には、両派は戦車や装甲車、迫撃砲、高射砲、快速艇など、飛行機とミサイルを除くあらゆる種類の兵器を使用しました。この激しい武闘により、多数の犠牲者が出ただけでなく、多くの市民も巻き添えとなりました。

墓地の形成過程

沙坪公園は、武闘の激化当時、「八・一五派」の勢力範囲でした。彼らは日々発生する自派の犠牲者を公園内に埋葬するようになり、これが文革墓群の原型となりました。最初の埋葬は、最初の死者が出たのとほぼ同時期である1967年6月と考証されています。埋葬のための穴掘りには、敵対する「反到底派」の捕虜が動員されたといいます。当初、墓標は犠牲者の氏名や所属組織を記した木製の簡素なものでしたが、1968年からは煉瓦やコンクリート製の本格的な墓石が作られるようになりました。これらの墓石の多くは、北京の人民英雄紀念碑を模したデザインで、文革期のスローガンや毛沢東の詩詞が刻まれ、さらに埋葬者の氏名、所属、簡単な略歴などが記されています。長年の風化により、氏名などが摩滅して埋葬者が不明となっている墓石も少なくありません。

大規模な武闘は、1968年に中国共産党中央が造反派組織の解体を命じたことで終結しましたが、両派の残党による小競り合いはその後も続き、犠牲者も発生しました。最後に埋葬が行われたのは1969年1月とされています。その後、都市部の知識青年が農村部へ移送される政策（下放）が進められ、武闘は終息に向かいました。

現在、文革墓群は約3000平方メートルの敷地に113基の墓碑があり、531名が埋葬されています。そのうち404名が武闘による直接の犠牲者です。埋葬者の約3分の2は10代後半から20代の若い世代で、最年少は14歳、最高齢は60歳でした。多くの女性も埋葬されています。墓群は西が高く東が低い緩やかな斜面に位置しており、墓石はすべて東向きに建てられています。これは、埋葬された人々の心が永遠に「赤い太陽」、すなわち文革期に崇拝された毛沢東主席に向かっていることを象徴しているとされています。

文革終結後の状況

文革終結後、文化大革命自体が否定される社会的な風潮が強まり、また急速な都市開発が進む中で、重慶市内に20箇所以上あったとされる武闘犠牲者の集団墓地は、1970年代後半から1980年代にかけてすべて取り壊されました。沙坪公園の墓群だけが残ったのは、当時この地域が重慶中心部から離れた僻地であったことと、公園内に位置していたことが理由とされています。

武闘の犠牲者たちは、単に文革の被害者という側面だけでなく、紅衛兵や造反派組織の一員として、多くの人々に対して迫害や破壊行為を行った実行者でもありました。そのため、彼らを憎悪する人々も少なくありませんでした。武闘という行為そのものも、紅衛兵・造反派組織の持つ暴力的な体質と強い独善性から生まれた、忌まわしく否定されるべき出来事と見なされていました。こうした背景から、墓群の取り壊しを巡る論争が起こります。

1985年、ある引退した幹部が、まだ四川省の管轄下にあった重慶の省党委に、墓群の取り壊しを提言しました。これを機に、墓群を取り壊して「狂気の時代」の忌まわしい記憶を忘れ去るべきだという意見と、後世への戒めとして保存すべきだという意見が激しく対立しました。最終的に、四川省党委から処理を委託され、墓群を視察した当時の重慶市委書記は、「取り壊さず、宣伝せず、公開しない」という三原則を含む方針を打ち出し、墓群はコンクリートの塀で囲われました。

長い間、文革墓群は社会から忘れられ、風化が進んでいましたが、近年になり社会的な風潮の変化とともに、犠牲者の遺族や友人などが訪れるようになり、関心が高まっています。2007年、国務院が第三次全国文物調査の実施を通知し、翌2008年には国家文物局が、人民公社運動、大躍進運動、文化大革命などの時期の文物も保護対象とする方針を示したことが、墓群保存の転機となりました。2008年8月には沙坪公園が沙坪垻区政府に区級文物保護単位への指定を申請し即日認定され、さらに2009年初めには市級文物保護単位への申請が行われました。そして同年12月15日、重慶市が第二次文物保護単位を公布した際に、文革墓群（紅衛兵墓園）が正式に指定されました。しかし、現在も沙坪公園の正門などには文革墓群や紅衛兵墓園を示す標識は一切ありません。墓群の入り口は常に施錠されており、春節や清明節といった特定の時期を除いては、沙坪公園管理処に事前申請しないと立ち入ることはできません。これは、歴史の負の遺産に対する複雑な立場を反映していると考えられます。

（参考文献: 南方周末記者 楊継斌「最後的武闘罹難者墓群」『南方週末』2010年02月24日）

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