斜交層理

斜交層理と斜交葉理

概要

斜交層理（しゃこうそうり、英語: cross-bedding）は、地層が形成される過程で生じる堆積構造の一種です。砂や泥といった砕屑物が、水や風の流れによって運ばれ、傾斜した面を繰り返し積み重なることで作り出されます。その規模が比較的小さいものは、斜交葉理（しゃこうようり、英語: cross-lamination）やクロスラミナとも呼ばれます。

斜交層理と斜交葉理の区別は、構造の大きさに基づいて行われます。一般的に、より規模の大きなものを斜交層理、小さなものを斜交葉理と呼び分けますが、その具体的な大きさの基準は、研究者や定義によって必ずしも統一されていません。例えば、単層の厚さが1センチメートル以下の場合を斜交葉理とする見解もあれば、数ミリメートル以下をもって斜交葉理とする見解もあります。また、単に規模だけでなく、構造が単層の内部に限定されるものを斜交葉理とする場合もあります。

形成過程

斜交層理は、一定方向に流れる媒体（水や風）の中で、砂や泥などが段階的に堆積を繰り返すことによって形成されます。流れによって運ばれてきた砕屑物は、海底や河床、あるいは砂丘の斜面（前置面）に降り積もります。堆積が進んでこの斜面が安定した傾斜を保てなくなると、重力によって砕屑物が崩れ落ち、その上に新たな層が形成されます。このプロセスが連続することで、層理面に対して斜めに傾いた互層が積み重なった構造が生まれます。

この形成過程は、河川や海岸、砂漠といった場所で見られる漣痕（リップル）やデューン（砂堆、砂丘）の形成と密接に関連しています。斜交層理や斜交葉理は、しばしばこれらのリップルやデューンの内部構造として観察されます。流れによってリップルやデューンが前方へ移動する際に、その前面に砕屑物が供給・堆積することで、斜交層理が順次作られていくのです。また、斜交層理や斜交葉理の内部には、堆積物が重力によって粗い粒子から細かい粒子へと順に沈降した痕跡である級化層理が見られることもあります。

流れの速さも、斜交層理の形状に影響を与えます。比較的流れが緩やかな環境では、層理面が直線的に広がる「平板型斜交層理」が形成されやすい傾向があります。一方、流れが速くなると、リップルやデューンの形状がより湾曲し、それに伴って「トラフ型斜交層理」と呼ばれる、流れ方向に溝状になった構造が発達します。

このように、斜交層理や斜交葉理の存在は、その地層が堆積した時代に、水や風といった流動的な媒体が存在していたことを強く示唆しています。

種類

斜交層理には、形成される環境やプロセスによっていくつかの特徴的なタイプがあります。

ヘリンボーン構造 (Herringbone structure): 異なる二つの向きの流れ、特に潮の満ち引きに伴う往復流によって形成される構造です。ニシンの骨のように、互いに反対方向へ傾いた斜交層理が交互に積み重なっているのが特徴です。
ハンモック状斜交層理 (Hummocky cross stratification, HCS): シルトから砂サイズの堆積物に見られる斜交葉理の一種で、特に嵐のような強い波浪条件下で形成されると考えられています。ドーム状に盛り上がった「ハンモック」と、それを取り囲むようにくぼんだ「スウェール」と呼ばれる構造が特徴的です。
スウェール状斜交層理 (Swaley cross stratification, SCS): ハンモック状斜交層理と同様に強い波浪で形成されますが、スウェール構造のみが発達し、ハンモック構造がほとんど見られないタイプです。ハンモック状斜交層理とともに、高エネルギーの堆積環境を示す指標となります。

地質学的な利用

地層中に見られる斜交層理や斜交葉理は、過去の地球環境を復元するための貴重な情報源となります。

最も重要な活用法の一つは、古流向の推定です。斜交層理の傾斜面は、堆積物が供給された流れの方向に対して斜めに形成されるため、この傾斜面の向きを測定・分析することで、地層が堆積した当時の水や風の流れの向き（古流向）を知ることができます。例えば、水平に近い地層中の平板型斜交層理の場合、その傾斜面の走向に対して直交する方向が、ほぼそのまま古流向を示します。地層自体が傾いている場合は、地層の傾きと斜交層理の傾きを組み合わせて、ステレオ投影などの地質学的な図法を用いることで、元の水平状態における正確な古流向を復元することが可能です。

これにより、過去の河川の流路、海岸線の位置、砂漠における卓越風向などを推定することができ、当時の地形や気候、さらには堆積物の供給源などを理解する上で役立ちます。

斜交層理は、このように堆積構造の観察から、過去の環境条件を読み解くための重要な鍵となるのです。

関連構造

層理: 堆積岩に見られる、堆積物が積み重なってできた平行な面。
葉理: 層理のうち、特に厚さが1センチメートル以下の薄い互層を指す。
級化層理: 一つの堆積単位の中で、下から上に向かって粒子の大きさが次第に細かくなる構造。流れのエネルギーが急に低下した際に形成される。

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