断絶への航海

『断絶への航海』（だんぜつへのこうかい）

著者：ジェイムズ・P・ホーガン
発表年：1982年
日本語訳：1984年（小隅黎訳、ハヤカワ文庫SF）

『断絶への航海』は、SF小説の名手であるジェイムズ・P・ホーガンによる作品で、人類が異文化と接触する過程と未来の植民地形成を描いています。物語は、20世紀の混乱した社会から始まり、様々な勢力が生き残りをかけて新たな星系の探索に乗り出す姿が描かれています。

あらすじ

西暦1992年、人類は米ソの冷戦が引き起こした紛争によって戦術核を用いる事態にまで至っていました。特に極東では、中国と日本の協力によって新たな共栄圏が登場し、して対立は激化していました。一方、ソ連を中心とした東側陣営は失地回復を狙う様々な手段に出なければならず、世界規模での戦争の危機が高まっていました。

この緊迫した状況にありながら、宇宙開発への意欲はなんとか続いており、火星には恒久的な基地が設けられ、木星の探査、さらに系外惑星に向けた探査船の打ち上げ計画も進行していました。2040年、本作の主人公であるヘンリー・B・コングリーヴは、星間探査船SP3に「人類播種機能」を追加する提案をします。この提案が承認され、新たに探査船クワン・インが人類の遺伝情報を運び、2020年に地球を出発しました。

2021年、ついに第三次世界大戦が勃発します。世界は新秩序アメリカ、大ヨーロッパ、東亜連邦の3つの勢力に再編され、それぞれの復興を競うこととなります。2040年、クワン・インが「ケイロン」と名付けられた居住可能な惑星を発見し、同時に人類の殖民地建設も進められます。

新たな惑星に向けて、移民船「メイフラワー2世」が他勢力よりも早く打ち上げられ、その使命は原住民を掌握し、地球の文化を持ち込むことです。航行中は地球の制度を保存しながらも、原住民との接触に向けて準備が進められます。

2081年初頭、メイフラワー2世はケイロンに到着し、そこには機械によって産まれ育った原住民が営む独自の文明が広がっていました。迎え撃つは、20年という長い歳月を経て地球から来た人々と、機械に育てられたケイロン人との果てしない邂逅です。

登場人物

物語には、メイフラワー2世の乗員たちを中心に、複雑な人間模様が描かれています。特に軍曹のスティーヴ・コールマンや、一等兵のトニイ・ドリスコル、伍長のスワイリーなど、様々な背景を持つキャラクターたちがそれぞれの役割を果たしています。彼らの人間関係と、時には摩擦が生じながらも共に目的を果たそうと奮闘する姿が物語に深みを与えています。

船と技術

物語に登場する「クワン・イン」や「メイフラワー2世」は、未来の技術を駆使した船で、特別な設計や機能を備えています。クワン・インは当初無人探査船として設計されたが、播種機能が追加され、殖民地形成の役割も担うようになりました。メイフラワー2世は、新秩序アメリカのアイデンティティを持ち、全周18マイルの回転する居住リングを備える大規模な移民船です。

結論

『断絶への航海』は、異文化との接触や新たな社会の構築というテーマを通して、時代の先見性と人類の未来を考察する力作です。作品は、テクノロジーの進化や人間関係の葛藤を描きつつ、新天地での人類の進む道を問いかけています。

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