断腸の稜線の戦い

断腸の稜線の戦い（だんちょうのりょうせんのたたかい、英語: Battle of Heartbreak Ridge）は、朝鮮戦争中の1951年 9月13日から始まった、国連軍と朝鮮人民軍、中国人民志願軍（以下、共産軍）との間の激しい戦闘です。この戦いは、その凄惨さから「心が引き裂かれるようだ」と表現され、その名が付けられました。

戦闘の背景

9月上旬、アメリカ軍第2師団は「血の稜線」を制圧しましたが、甚大な損害を受けました。当初、第8軍司令官ヴァン・フリート中将は、敵後方への上陸作戦を計画していましたが、血の稜線での損害を考慮し、中止しました。その後、ヴァンフリート司令官は、限定的な攻撃と偵察を指示し、第10軍団に対し、血の稜線の真北とパンチボウル北方の稜線を確保するよう命じました。これにより、第2師団は、南から894高地、931高地、851高地へと連なる「断腸の稜線」を攻撃することになりました。

この稜線は、人民軍第5軍団第6師団が守備しており、特に851高地、主峰である931高地、そしてその西側の文登里渓谷は要塞化されていました。国連軍にとってこの稜線の確保は、以下の戦略的観点から重要でした。

文登里と沙汰里渓谷の攻撃経路の掌握
文登里の無力化
カンザス線を瞰制する脆弱点の除去
戦線の湾曲部の除去
共産軍を魚隠山、梅峰、看霧峰の線まで駆逐するための足掛かり

戦闘の経過

初期段階

9月13日、国連軍は砲撃支援のもと攻撃を開始しましたが、人民軍の激しい抵抗に遭い、前進は困難を極めました。夜間には、850高地を一時的に占領しましたが、人民軍の反撃により、守備隊は全滅しました。

戦略の変更

この結果、第2師団長は、断腸の稜線が血の稜線と同様に困難な戦いになることを認識し、攻撃計画を一部変更しました。人民軍の防御が東側に集中していることから、第9連隊を南側から894高地へ攻撃させ、東西からの二面攻撃を試みました。

激戦の継続

9月14日、第23連隊と第9連隊は攻撃を開始しましたが、前進は困難でした。第23連隊は、フランス大隊に841高地-1052高地に連なる稜線を攻撃させ、第9連隊は戦車部隊の支援を受けながら894高地付近の高地を確保しました。9月15日には、第9連隊が894高地を占領しましたが、第23連隊は苦戦を強いられました。9月16日、第23連隊は全兵力を投入しましたが、突破口を開くことが出来ませんでした。その後、人民軍も予備兵力を投入し防御を強化しました。

陣地戦と変化

9月20日、戦車部隊が沙汰里まで進出し、砲撃で第23連隊を支援できるようになりました。9月21日には、第3大隊が850高地を確保しました。9月22日、第23連隊は、第1大隊と第2大隊を投入し、931高地を攻撃しましたが、人民軍の激しい抵抗により、大きな損害を出し後退しました。9月23日、第1大隊は931高地を一時的に占領しましたが、その夜の人民軍の夜襲により奪還されました。

戦況の打開

9月25日、第23連隊は消耗したため、フランス大隊に931高地攻撃を任せ、第38連隊の一部を配置しました。9月26日、第23連隊の攻撃は頓挫しました。連日の砲撃も人民軍の有蓋陣地を破壊できず、迫撃砲を制圧できませんでした。この時点で、第2師団は1670名以上の損害を出し、特に第23連隊の損害は甚大でした。
9月27日、人民軍は戦力を交代し、国連軍側も戦術の見直しを迫られました。10月2日には、タッチダウン作戦が発令され、戦車と歩兵部隊が連携して931高地を攻略し、同時に道路を啓開する計画が立てられました。

最終局面

10月5日夜、砲撃支援のもと第23連隊が攻撃を開始しました。10月6日午前中には、931高地を完全に占領しました。10月7日、人民軍は第二線陣地に後退し、新たな部隊と交代しました。10月10日には、戦車部隊が文登里に進出し、人民軍の補給路を遮断しました。
第23連隊は、851高地を攻撃しましたが、中共軍の増援を受けた人民軍は、激しく抵抗し、米軍の公刊史は、「戦死するか、負傷して戦えなくなるまで抵抗をやめなかった」と人民軍の勇戦を称えています。10月13日、フランス大隊が851高地を占領し、国連軍は、断腸の稜線での戦闘を終結させました。

戦闘の終結と影響

この戦闘で、国連軍は血の稜線と合わせて文登里まで推進しましたが、約2か月の期間と約6千名の犠牲を払いました。また、軍需品の消耗は莫大なものとなりました。断腸の稜線の戦いは、朝鮮戦争における主要な戦闘の一つとして、その激しさと双方の犠牲の大きさから、歴史に深く刻まれています。

参考文献

Hermes, Walter G. (1992). Truce Tent and Fighting Front. Center of Military History, United States Army.
陸戦史研究普及会編『朝鮮戦争史会談と作戦』原書房、1973年。
韓国国防軍史研究所編著著、翻訳・編集委員会訳『韓国戦争第5巻休戦会談の開催と陣地戦への移行』かや書房、2007年。
军事科学院军事历史研究所編著 (2011). 抗美援朝战争史（修订版）下巻. 军事科学出版社.
“6·25戦争史第9巻-휴전회담 개막과 고지쟁탈전” (PDF) (韓国語). 韓国国防部軍史編纂研究所。

もう一度検索