新印象派

新印象派：科学と色彩のハーモニー

19世紀後半、印象派の画家たちは、新たな表現方法を探求する中で、次第にグループとしてのまとまりを失っていきました。モネやルノワールといった中心的な画家たちが個々の芸術探求に重きを置くようになり、サロンへの出展や自然主義派との交流をめぐる対立も表面化しました。1886年の第8回印象派展は、まさにその終焉を示唆するものでした。モネやルノワールらの作品は姿を消し、印象派に批判的な画家たちも参加するなど、様変わりした展覧会に、後に「新印象派」と呼ばれるジョルジュ・スーラやポール・シニャックも名を連ねていました。

スーラの科学的色彩探求

スーラは、古典的な美術教育を受けながらも、ドラクロワやバルビゾン派、そして印象派の絵画に強い影響を受けました。印象派の直感的な色彩表現に疑問を抱いた彼は、色彩の科学的な解明を目指し、シュヴルール『色彩の同時対照の法則』、ブラン『デッサン芸術の文法』、ルード『近代色彩論』といった当時の科学書や美術理論書を深く研究しました。

スーラは、印象派の筆触分割を科学的に洗練させました。彼は、混色をせずに純色を小さな点でキャンバスに配置する「点描技法」を確立しました。この技法は、原理的には「分割主義」、技法的には「点描主義」と呼ばれ、スーラ自身は「色彩光線主義」と名付けました。この点描によって、視覚混合により、光と色の表現を最大限に引き出すことを可能にしました。代表作である『グランド・ジャット島の日曜日の午後』は、この技法の集大成と言えるでしょう。

新印象派の展開と影響

1891年に若くして亡くなったスーラの後を継ぎ、シニャックが新印象派の理論をまとめ、その発展に貢献しました。シニャックは、『ウジェーヌ・ドラクロワから新印象主義まで』（1899年）を刊行し、点描技法の理論を体系化しました。

新印象派は、フォーヴィズムなどの20世紀初頭の前衛絵画運動に大きな影響を与えました。科学的な色彩理論に基づいた点描技法は、後の芸術家たちに、色彩と光の新たな可能性を示唆しました。

新印象派とポスト印象派

新印象派としばしば混同される「ポスト印象主義」は、セザンヌ、ゴッホ、ゴーガンら、印象派の流れをくみながらも独自性を追求した画家の総称です。ポスト印象主義は、1906年にロジャー・フライが提唱した、後世の歴史的分類であるため、その範囲は論者によって異なり、新印象派を含める見解もあります。

主要な新印象派の画家

新印象派には、スーラ、シニャック以外にも多くの才能ある画家たちがいました。マクシミリアン・リュス、イポリット・プティジャン、レオ・ゴーソン、ヤン・トーロップ、アンリ＝エドモン・クロス、テオ・ファン・レイセルベルヘ、シャルル・アングラン、カミーユ・ピサロ、ルイ・アイエ、アンリ・マルタン、ジャン・ペスケ、アンリ・ヴァン・デ・ヴェルデなど、様々な画家たちが独自の表現を追求しました。

日本における新印象派展

日本では、2002年の「スーラと新印象派展」や、1985年の「点描の画家たち展」など、新印象派の作品を紹介する展覧会が開催され、多くの観客を魅了しました。これらの展覧会では、スーラやシニャックだけでなく、関連する多くの画家たちの作品が展示され、新印象派の多様な表現様式が紹介されました。これらの展覧会で紹介された画家は、ジョルジュ・スーラ、ポール・シニャック、カミーユ・ピサロ、アルベール・デュボワ＝ピエ、シャルル・アングラン、リュシアン・ピサロ、マクシミリアン・リュース、エミール＝ギュスターヴ・カヴァッロ＝ペドゥッツィ、レオ・ゴーソン、ルイ・アイエ、フィンセント・ファン・ゴッホ、アンリ・ドラヴァレー、アルフレッド・ウィリアム・フィンチ、テオ・ファン・レイセルベルヘ、ジョルジュ・レメン、ヤン・トーロップ、アンナ・ボック、ヘンリー・ファン・デ・ヴェルデ、ジョルジュ・モレン、アンリ＝エドモン・クロス、レオン・プルトー、アシール・ロージェ、イポリット・プティジャンなど多岐に渡ります。

もう一度検索