アンリ・ヴァン・デ・ヴェルデ

アンリ・ヴァン・デ・ヴェルデ（Henry van de Velde, 1863年4月3日 - 1957年10月25日）は、19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したベルギーの建築家、デザイナー、教育者です。アール・ヌーヴォー様式からモダンデザインへと移行する上で重要な役割を果たし、その後のデザイン運動に大きな影響を与えました。ヴァン・ド・ヴェルド、またはファン・デ・フェルデとも表記されます。

生い立ちと初期の活動

アンリ・ヴァン・デ・ヴェルデは、ベルギーのアントウェルペンで生まれました。彼の父親はパリ・コミューンに参加した革命家で、死刑判決を受けてベルギーに亡命していました。当初、画家を志したヴァン・デ・ヴェルデは、パリで印象派の絵画に触れ、その影響を受けました。その後ベルギーに帰国し、1887年には友人たちと「アール・アンデパンダン（独立芸術）」というサークルを設立しました。これは、1884年にパリで創立された独立芸術家協会に触発されたものでした。

建築とデザインへの転身

1894年頃から、ヴァン・デ・ヴェルデは住宅設計を始め、1895年にはパリのサミュエル・ビングのギャラリー「Maison de l'Art Nouveau」のインテリアデザインを担当しました。この仕事がきっかけとなり、彼はアール・ヌーヴォー運動の中心人物として注目を集めるようになりました。彼のデザインは、有機的で流れるような曲線が特徴であり、自然の要素を取り入れた装飾的なアプローチを追求しました。

ドイツでの活動と教育

その後、ヴァン・デ・ヴェルデはドイツに渡り、ザクセン大公ヴィルヘルム・エルンストの招きを受け、1902年にヴァイマルに工芸ゼミナールを設立しました。1906年にはこのゼミナールが工芸学校に発展し、彼はその校舎（1911年完成）の設計も担当しました。この学校は、後のバウハウスの基礎となる重要な教育機関となりました。

彼はドイツ工作連盟にも参加し、中心メンバーとして活躍しましたが、第1回ドイツ工作連盟ケルン展（1914年）を機に、製品の規格化を推進するヘルマン・ムテジウスと激しい論争を繰り広げました。ヴァン・デ・ヴェルデは、規格化よりも作家の芸術性や個性を重視する立場を主張し、この論争はデザイン界における重要な転換点となりました。

第一次世界大戦とその後

第一次世界大戦の影響により、ヴァン・デ・ヴェルデは工芸学校の後継者をヴァルター・グロピウスに託し、1915年にドイツを去りました。工芸学校は、グロピウスによって発展させられ、バウハウスへと繋がっていきました。

スイスでは、ロマン・ロランと親交を深める一方で、ミューラー家の依頼を受けて美術館の設計を手がけました。この美術館は、現在「クレラー・ミュラー美術館」として知られており、ゴッホのコレクションで有名です。彼の建築作品は、機能性と美しさを見事に融合させ、アール・ヌーヴォーとモダニズムの架け橋となる存在として高く評価されています。

ヴァン・デ・ヴェルデの業績は、建築、デザイン、教育の分野に多岐にわたり、その影響は現代のデザインにも受け継がれています。彼のデザイン哲学は、美しさだけでなく、機能性や個性を重視するものであり、後世のデザイナーたちに大きなインスピレーションを与え続けています。

関連事項

• - アール・ヌーヴォー
• - モダニズム建築

外部リンク

• - クレーラー・ミュラー美術館

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