新宿百人町事件

新宿百人町事件：北朝鮮による諜報活動の実態

新宿百人町事件は、日本を舞台に展開された北朝鮮によるスパイ事件であり、特に朝鮮総連の元幹部が深く関与していたことから「朝鮮総連元幹部スパイ事件」とも呼ばれます。この事件は、北朝鮮が工作員を育成し、日本国内で韓国人に対する獲得工作や財政工作を行うという、組織的な諜報活動の実態を浮き彫りにしました。

事件の概要

事件の中心人物である康成輝（カン・ソンヒ）は、北朝鮮の大物工作員として知られています。彼は朝鮮総連の元幹部であり、1979年頃に北朝鮮の工作員として採用され、スパイ訓練を受けました。1983年には朝鮮総連を脱退し、貿易会社を設立して工作活動を行う傍ら、工作資金の獲得にも従事しました。

この貿易会社は、康の活動を隠蔽するための偽装であり、彼は約20年にわたり数十回も北朝鮮を訪れ、工作指令や資金を受け取っていました。また、北朝鮮からの指令は、万景峰号や乱数放送を通じて伝えられていました。康は、日本国内において巨額の工作資金を集め、北朝鮮へ送金する役割を担うと共に、日本国内および韓国国内の工作員に地下革命組織の建設を指示するなど、司令塔としての役割も果たしていました。

さらに、康は韓国や日本の軍事、政界、財界関係者、在日韓国人、韓国人留学生に対して、工作員としての獲得活動を行いました。東京都内、静岡県伊豆地方、北京などで、韓国の財界人や政府関係者と接触し、抱き込み工作を展開しました。その結果、1996年に死去した韓国の巨大企業グループ系列企業の経営者を含む数人を協力者とすることに成功しています。また、日本の政治家である鳩山由紀夫にも工作対象として接近したことが明らかになっています。

宗教活動を隠れ蓑にした工作活動

康は、1989年頃にキリスト教の牧師として活動していました。1997年には日本のキリスト教団体に接近し、北朝鮮への食糧支援に携わったほか、韓国に赴いて韓国内に拘置されていた辛光洙などの非転向長期囚の北朝鮮への送還活動を行いました。この送還活動では、盧泰愚大統領へ向けた韓国人政治犯釈放の要望書に日本の国会議員多数が署名しました。

1997年、康はJR東日本大久保駅近くの新宿区百人町にキリスト教系の団体「国際キリストセンター」を設立しました。さらに、北朝鮮にある「朝鮮宗教人協議会」との間で、朝鮮半島の平和を目指す合意書を作成しました。これらの活動は、工作活動を隠蔽するためのものであったと考えられます。

逮捕と事件の終結

2000年11月21日、康成輝（当時60歳）とパチンコ店従業員、牧師など12人が、交通事故の保険金詐欺容疑、公正証書原本不実記載容疑、有印私文書偽造容疑などで警視庁公安部外事二課に逮捕されました。家宅捜索の結果、朝鮮労働党の統一戦線部、対外情報調査部の幹部と康が頻繁に会っていたこと、当該機関からの指示、工作対象者の経歴や家族構成・思想傾向などを記載した手帳、工作活動報告書、工作研修マニュアルなどが発見されました。また、北朝鮮からの指示を乱数放送で受信するための短波受信機も発見されています。

康の協力者である日本人は、北朝鮮の指示により、在韓地下党組織の機関紙の普及工作等を計画し、一部を実行に移していました。さらに、マスメディア関係者や各界の著名人に接近し、日本国内で諜報活動を行っていたほか、宗教活動の名目で訪韓し、長期間抑留されている囚人の北朝鮮への即時送還に向けた活動にも携わっていました。

北朝鮮工作員である康成輝は、2004年4月に死亡しました。これにより、新宿百人町事件は終結しましたが、事件を通じて、北朝鮮の諜報活動の巧妙さと危険性が改めて浮き彫りになりました。


この事件は、日本が他国からのスパイ活動にどのようにさらされているかを示す重要な事例であり、今後の諜報対策の重要性を物語っています。

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