新幹線運賃差額返還訴訟

新幹線運賃差額返還訴訟の概要

新幹線運賃差額返還訴訟は、1975年に発生した日本国有鉄道（国鉄）時代の重要な民事訴訟です。この訴訟は、当時の東海道新幹線運賃が算定方法において不公正であるとされ、一人の利用者が運賃の差額返還を求めて提訴したものでした。訴訟の引き金となった背景には、新幹線が国内の鉄道運輸において果たしていた役割や、運賃の算出基準が存在しています。

訴訟の背景

1964年に開業した東海道新幹線の運賃は、在来線である東海道本線の営業キロを基に算定されています。この方式は、もともと新幹線が在来線の補完的役割を果たす道筋として設計されたことに起因します。しかし、新幹線は従来の線路と異なり、カーブが少なく直線的な区間が多いため、実際の運行距離は在来線よりも約40キロメートル短いという問題がありました。これに気づいた福井県在住のデザイナーは、1975年2月に大阪から東京へ新幹線を利用した際の運賃が、実際の距離に基づくと200円安くなると主張し東京簡易裁判所に訴えを起こします。

訴訟の展開

提訴は1975年3月10日、当時国鉄が運営していた新幹線の運賃算定が不当であるとするものでした。原告は運賃法第3条第2項を根拠に、新幹線の運賃は実際の距離に基づいて算出されるべきであると正当性を主張しました。東京簡裁で始まった裁判は、東京地方裁判所に移管され、さらには合議体に移されるという展開を見せます。

一方、国鉄側は以下のような主張を行いました。

• - 営業キロの決定は国鉄の裁量によるものである。
• - 在来線と新幹線は一体の輸送システムである。
• - 運賃を別計算すると業務が複雑化し、費用がかさむ。それに対し、裁判長は原告に和解を勧めるも、原告は受け入れませんでした。この訴訟の主目的は運賃の返還ではなく、運賃制度が抱える不公正さを世に問うものであったのです。

1978年11月30日、東京地方裁判所は原告の主張を認め、200円の返還を命じる判決を下しました。しかし、国鉄はこの判決に不服を申し立て東京高等裁判所に控訴。その結果、1982年7月14日に逆転判決が下され、国鉄の運賃決定方法が適法であるとの結論に至りました。原告は最高裁判所へ上告したものの、1986年3月28日に棄却され、この訴訟は原告の敗訴で終了しました。

法改正と影響

訴訟の進行中、国鉄は敗訴の可能性を考慮し、国有鉄道運賃法の改正を求めました。1978年10月に改正が成立し、11月には施行されます。この改正により、新たに第7条の2が追加され、法的影響を回避する道が開かれました。

また、この訴訟以降、国鉄監修の交通公社の時刻表にも運賃計算基準に関する明記が追加され、透明性が向上しました。その後、この法も国鉄分割民営化によって廃止されることとなりますが、以後のJR各社においても新幹線の運賃はこの算定方法に基づいています。

結論

新幹線運賃差額返還訴訟は、日本の交通制度に大きな影響を与えた重要な出来事であり、この訴訟を契機に運賃制度の透明性が向上する一助となりました。また、訴訟の過程において新たな法律の策定や改正が行われ、事後の運賃算定方法にも影響を及ぼしていることが今後の交通行政においても重要な示唆となっています。

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