新潟空港訴訟

新潟空港訴訟とは

新潟空港訴訟は、新潟空港に発着する特定の航空路線に関する事業免許の取り消しを求めて提起された行政訴訟です。この訴訟は、空港周辺に居住する住民が、航空機の運航に伴う騒音などの影響によって自身たちの生活上の利益が侵害されていると主張し、運輸大臣が交付した事業免許の違法性を訴えたものです。

訴訟の背景

事の発端は1979年（昭和54年）12月、当時の運輸大臣が二つの航空会社に対し、新潟空港を発着する定期航空運送事業の免許を付与したことにあります。具体的には、日本航空に対しては新潟-小松-ソウルを結ぶ路線、全日本空輸に対しては新潟-仙台を結ぶ路線について、それぞれ事業を行う許可が与えられました。

これに対し、新潟空港の近隣に住む住民の一部が、新しい路線の運航が開始されることによって、航空機の離着陸に伴う騒音などが発生し、これにより自分たちの平穏な生活や健康といった法的利益が侵害されるとして反発しました。住民らは、運輸大臣が行った事業免許の付与は違法であると主張し、その取り消しを求めて裁判所に訴えを提起しました。

裁判の推移

訴訟はまず、地方裁判所で行われ、さらに高等裁判所へと進みました。これらの下級審における審理では、訴えを提起した住民側（原告）が、本件事業免許の取り消しを求める訴訟において、法律上、訴えを起こす資格（原告適格）を有しているかが争点の一つとなりました。一審、二審ともに、裁判所は原告である住民に原告適格はないと判断し、訴えは本案審理に入る前に却下されました。

下級審で敗訴した住民側は、この判断を不服として最高裁判所に上告しました。最高裁判所は、下級審とは異なる判断を示し、原告適格を認めましたが、最終的には住民側の請求を棄却する判決を下しました。最高裁判所の判決は1989年（平成元年）2月17日に言い渡されました。

最高裁判決の論点

原告適格に関する判断

最高裁判所は、行政処分の取消訴訟において、その処分の直接の相手方ではない第三者であっても、当該処分により自己の法律上の利益を侵害されるおそれがある者は、訴えを提起する資格（原告適格）を有するという立場を明確にしました。本件においては、新潟空港の周辺住民が、事業免許によって運航される航空機からの騒音等により生活利益を侵害される可能性があることを認め、住民に原告適格があると判断しました。これは、行政訴訟における住民の原告適格を比較的広く認める判断として注目されました。

請求棄却の理由

しかし、原告適格を認めた上で、最高裁判所は住民側の訴え、すなわち事業免許を取り消せという請求を棄却しました。これは、住民側が主張した事業免許の違法事由について、裁判所がそれらを違法とは認めなかったためです。

住民側は、事業免許が違法である理由として主に以下の点を主張しました。

空港の変更後の着陸帯や滑走路が、本来供用が告示された期日よりも前から使用されていたこと。
空港設備の一部である非計器用の設備が、計器着陸用として使用されていたこと。
* 特にソウル線においては、利用客の大部分が遊興目的のツアー団体であり、また韓国側との相互乗り入れによって供給過剰となることから、事業の必要性がないこと。

最高裁判所は、これらの原告の主張する事情について検討しましたが、いずれも、事業免許の違法性を判断する上で、原告である住民の「自己の法律上の利益に関係のある違法事由」にはあたらないと判断しました。具体的には、空港施設の運用方法や事業の必要性といった点は、直接的に住民の騒音被害などの生活利益侵害といった法律上の利益に関わる違法性の根拠とは認められないとしました。

この結果、最高裁判所は原告適格を肯定しつつも、住民が主張する事業免許の違法事由を認めず、最終的に住民側の請求を退ける判決を下し、住民側の敗訴が確定しました。

もう一度検索