新現実

『新現実』とは

『新現実』は、編集者の大塚英志が中心となって刊行された文芸・批評誌です。2002年に創刊され、不定期に5号まで刊行されました。雑誌のキャッチコピーは号を重ねるごとに変化し、時代の状況を反映したメッセージを発信しました。

概要

第一期 (2002年 - 2004年)

大塚英志と東浩紀が編集を担当し、角川書店から刊行されました。東浩紀が考案した誌名には、新たな時代を切り開くという意気込みが込められていました。大塚英志は、雑誌創刊の目的として、出版の困難さを乗り越える実例を示すこと、そして若い世代の書き手に発表の場を提供することを掲げました。

創刊号では、新海誠が漫画に初挑戦し、佐藤友哉が小説を発表するなど、当時新進気鋭の作家に機会を与えました。また、文学フリマの告知を掲載するなど、同人誌文化との連携も重視していました。

イラク戦争の開戦が迫る中、雑誌は「戦時下」というキーワードを意識した内容へと変化していきます。2号では「天皇制への立場」、3号では「いかに戦時下に語るか」を特集するなど、社会情勢に対する批評的な視点を打ち出しました。

当初は、大塚英志が関与していた『ファウスト』との連携も見られましたが、企画の重複や競合が生じたため、次第に方向性が分かれていきました。第一期は3号で終了し、大塚英志の自費で原稿料が支払われていました。

第二期 (2004年 - 2005年)

『Comic新現実』としてリニューアルされ、隔月刊で1年間刊行されました。小説系の企画は減少し、過去の名作漫画の研究やアニメ評論、インタビュー記事の比重が高まりました。また、ラジオ番組「改め！ラジオ新現実」「それでもラジオ新現実」も放送されました。

第三期 (2007年 - 2008年)

発行元を太田出版に変更し、『新現実』として再び刊行されました。しかし、2008年1月のVol.5以降、刊行は停止しています。漫画やアニメ関連の企画は減少し、政治思想系の企画が増加しました。

キャッチコピーの変遷

Vol.1: いちばん新しい文学がここにある。
Vol.2: 「新しい現実」を生きる思想誌
Vol.3: 「新しい現実」を生きるための思想誌
Vol.4: 戦時下の批評誌
Vol.5: 見えない戦時下の批評誌

主な連載作品

小説: 佐藤友哉『世界の終わりの終わり』、白倉由美『しっぽでごめんね』、藤林靖晃『桂子と。―藤林靖晃小説集』、元長柾木『飛鳥井全死は間違えない』
評論: 荷宮和子『おたくの花咲く頃』、大澤信亮『マンガ・イデオロギー』、保阪正康『まぼろしのアナーキストたち』、大塚英志『まんが教育学ノート』
コミック: 大塚英志（原作）・杉浦守（作画）『オクタゴニアン』、山田風太郎（原作）・浅田寅ヲ（作画）『甲賀忍法帖・改』、群青『獏屋』、大塚英志（原作）・山崎峰水（作画）『黒鷺死体宅配便』、西島大介『ディエンビエンフー』、大塚英志（原作）・森美夏（作画）『八雲百夜』、吾妻ひでお『うつうつひでお日記』『地を這う魚』

『新現実』の意義

『新現実』は、文芸・批評の分野において、新たな才能の発掘と育成に貢献しました。また、社会情勢に対する批評的な視点を提示し、読者に多様な価値観を提供しました。雑誌の刊行は不定期でしたが、その時代ごとに актуальный なテーマを取り上げ、議論を呼び起こしました。

特に第一期では、当時台頭しつつあった若い作家やクリエイターに発表の場を提供し、後の活躍を後押ししました。また、第二期では漫画やアニメといったサブカルチャーに焦点を当て、批評の対象として確立する上で重要な役割を果たしました。

『新現実』は、短い期間ながらも、日本の文芸・批評シーンに大きな影響を与えた雑誌として記憶されています。

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