新界原居民

新界原居民とは

新界原居民（しんかいげんきょみん、英語: Indigenous inhabitant）とは、香港においてイギリス植民地となる以前より居住していた住民の男系子孫を指します。彼らの村落は、かつて租借地であった新界地区にのみ存在するため、単に「原居民」とも呼ばれます。

原居民の概要

原居民の郷村は約700あり、現在の新界の人口のうち約10%を占めるとされています。香港の一般住民は広州市や仏山市周辺をルーツとする広東人が大多数ですが、原居民の約半数は客家人で最も多く、次いで深圳周辺に分布する「本地」（広東語: プンテイ）または「囲頭人」（ワイタウヤン）と呼ばれる人々が3割強を占めます。彼らは広東語の下位方言である宝安方言、いわゆる「囲頭話」を話します。「囲頭」または「囲」とは、集落の周囲に築かれた城壁のような防護壁を指します。客家人も同様の城壁を築いて住んでいましたが、彼らの出身地は広東省東部が多く、使用する言語も客家語と異なります。

その他、少数ながら「鶴佬」（ホクロウ）と呼ばれる潮州人や、「蜑家」（タンカ）と呼ばれる水上生活者（蛋民）のうち陸上に住んでいた人々も含まれます。ただし、当時船上で生活していた大多数の蛋民は原居民には含まれません。

原居民の特殊な地位

中国本土からの移住者とその子孫である一般香港住民とは異なり、原居民は植民地時代から特殊な権利と地位を認められてきました。原居民が他の地域や香港外に移住しても、香港におけるその地位が失われることはありません。香港返還後も、香港特別行政区基本法第40条において、その特殊な地位と制度が保証されています。

伝統的権利

原居民は、伝統的な習慣や生活を守るために特別な権利と待遇が認められています。男系宗族の維持のため、遺産相続は男子が継承すると定められています。また、郷村落の土地や家屋には香港政府が課税することはできません。土地の移転を求める際には、十分な補償が必要とされます。さらに、死者の埋葬についても、公共墓地ではなく郷村付近の山林に埋葬することが認められています。

もともと、原居民を含む中国系住民に対しては、イギリス領有後も慣習法として従来の清国法（大清律例）が適用されていました。例えば、死刑執行において、イギリス人やその他の外国人は絞首刑でしたが、中国系住民は斬首刑とされていました。清朝は1912年に滅亡し、中国本土の法制度は中華民国法に変わりましたが、香港では大清律例が約60年後の1971年まで存続しました。1971年に、最後まで残っていた大清律例の婚姻関係法が成文化されましたが、原居民は特例として従来の権利が認められることになりました。

原居民の政治組織

原居民の郷村落では、村長選挙が行われます。選挙権は男性の原居民のみに認められており、2000年には性や出身に基づく差別であるとして違憲判決が出ましたが、制度の廃止には至りませんでした。代わりに、2003年からは原居民を代表する村長と、一般住民を代表する村長が並立するようになりました。

郷議局（Heung Yee Kuk）は、1926年に設置され、1959年に「郷議局条例」が施行され、香港政府の法定機関となりました。かつて存在した区域市政局では、郷議局主席（1名）および副主席（2名）が当然議員のポストを得ていました。郷議局は立法会選挙における「功能組別」の一つであり、同主席を立法会議員として送り込んでいます。

郷事委員会（Rural committee）は、郷議局の下部組織であり、香港全域に27あります。その主席は、郷議局議員および所在地域の区議会当然議員を兼務します。2004年に選出された第2期立法会では、これらの原居民の政治組織に属する議員が4名いました。また、一般的に保守派（一部左派）に近い立場であるため、中国政府との関係も良好です。香港政界での原居民のプレゼンスが高いことから、原居民出身の政治家は「郷事派」と呼ばれています。

関連事項

• - 蛋民
• - 客家

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