旅芸人の記録

旅芸人の記録

「旅芸人の記録」（希: O Θίασος、翻字: O Thiassos）は、ギリシャの著名な映画監督テオ・アンゲロプロスの手による作品である。舞台となるのは、1952年と1939年のエギオンの町で、一座の旅芸人たちが演じる悲劇とその背後にあるギリシャの歴史だ。この映画は、19世紀の牧歌劇「羊飼いのゴルフォ」を上演する旅芸人の物語を描きつつ、ギリシャの複雑な政治状況や歴史的出来事を反映した叙事詩的な作品である。

物語の概要

物語は、1952年のエギオンの小さな町から始まる。旅芸人の一座は、町に到着した際、軍事政権のパパゴス元帥への投票を促す声が響いている。一方、物語のもう一つの時間軸は1939年で、同じ町に旅芸人の一行が到着し、「羊飼いの女の子ゴルフォ」を上演する準備を進める。

一座のメンバーには、座長のアガメムノンとその妻クリュタイムネストラ、長女エレクトラ、次女クリュソテミス、長男オレステス、アコーディオン奏者の老人、そして「詩人」と呼ばれる青年がいる。アイギストスというメンバーは右翼思想の持ち主で、独裁政権を支持しているが、オレステスたちは左翼を支持している。その中で、アイギストスはアガメムノンの妻と密通しているという複雑な人間関係が描かれる。

戦争と占領の影響

次第に物語は、1939年のギリシャの政治情勢から発展し、1940年には第二次世界大戦の影響を受けることになる。アガメムノンは祖国を賛美しつつ、戦争の影響で活動を中止せざるを得ない状況に直面していく。その後、ギリシャがナチスドイツの占領下に入ると、オレステスは抵抗のためにパルチザンに参加する。しかし、アイギストスの密告によって、オレステスの家族と一座は危険にさらされる。

オレステスは父アガメムノンが捕らえられて殺されるという悲劇に直面し、座長としてアイギストスが台頭する。反独パルチザンの活動は激しさを増し、人々の生活は厳しくなっていく。一座は冬の雪道を歩きながら、パルチザンの死体を見るシーンは印象的である。移動中にドイツ軍に捕らえられる場面も、戦争の残酷さを強調する。

内戦とその後

戦後、国民統一政府が成立し、示威行動に参加する人々が銃撃を受ける事件も発生する。エレクトラは、弟オレステスと再会し、劇場での復讐劇が展開される。オレステスはアイギストスと母親を射殺し、復讐を果たすが、その後の手痛い代償も伴う。

最終的には、1945年に形成されたヴァルキザ合意によって、パルチザンは武器を放棄する。しかし、オレステスたちはこの合意を無視し、追われる身となり、最終的には捕らえられ処刑される。また、ピュラデスは釈放されるものの、今後の彼の選択にも注目が集まる。

作品の評価

「旅芸人の記録」は、アンゲロプロス特有の長回しや時代を超えたシーンの描写によって、視覚的にも豊かな作品である。観客は、感情移入をしながら物語の展開を追うことが求められ、同時にギリシャの歴史が持つ複雑さも感じ取ることができる。この映画は、1975年のカンヌ国際映画祭で国際批評家大賞を受賞するなど、評価を受けている。

旅芸人の物語は、私たちに歴史とは何か、そしてそれを生きる人々の物語を考えさせる。

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