日延

日延（にちえん、生没年不詳）は、平安時代中期に活躍した天台宗の僧侶であり、肥前国（現在の佐賀県、長崎県の一部）の出身とされています。権律師である仁観に師事し、天台教学を深く学びました。

当時、中国の天台山から日本の延暦寺に対し、中国で散逸してしまった天台教籍の書写と送付の依頼がありました。953年（天暦7年）、日延はその重要な使命を帯びた送使として、呉越国（現在の中国浙江省一帯）へ派遣されることとなります。

呉越国において、日延はその学識と人格によって呉越王・銭俶（せんしゅく）から高く評価され、紫衣を贈られるという栄誉に浴しました。さらに、司天台（天文台）での学習を特別に許可され、天文学や暦学についても深く学ぶ機会を得ます。957年（天徳元年）には、日本にまだ伝わっていなかった新しい暦法である符天暦（ふてんれき）と、内典・外典合わせて約1000巻もの経典や文献を携えて帰国しました。

村上天皇は、日延の帰国と彼の持ち帰った貴重な書物、暦法に大いに感銘を受け、その功績を称えようと僧綱宣旨を贈ろうとしましたが、日延はこれを丁重に辞退しました。その後、九州の大宰府へと下り、康保年間（964年 - 968年）には、藤原師輔（ふじわらのもろすけ）のために大浦寺を建立したと伝えられています。

日延が請来した符天暦は、日本における宿曜道成立の基盤になったとされています。しかし、『二中歴』という文献においては、日延は宿曜師としてではなく、人の骨相や生年月日から運命を占う禄命に通じた禄命師として扱われており、宿曜道よりもむしろ禄命の分野における活動が知られていたようです。

このように、日延は天台宗の僧侶としてだけでなく、大陸の文化や知識を日本へ伝えるという重要な役割を果たし、日本の文化史、特に天文学や暦学、そして宗教史に大きな影響を与えた人物として評価されています。

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