日本国憲法第56条

日本国憲法第56条：国会の議事運営と民主主義の根幹

日本国憲法第56条は、国会の議事運営に関する重要な規定を定めています。この条文は、国会の意思決定における最低限の参加人数（定足数）と、議決方法について明確に規定することで、民主的な意思決定プロセスを確保することを目的としています。

条文の内容

第56条は大きく2つの部分から構成されます。1つは定足数に関する規定、もう1つは議決方法に関する規定です。

1. 定足数: 両議院とも、総議員の3分の1以上の出席がなければ、議事を開き、議決を行うことができません。これは、国会における意思決定に、一定数の議員の参加を義務付けることで、少数派の意見が軽視されないようにするための措置です。緊急時における議会の開催困難性を考慮し、3分の1という比較的緩やかな基準が設定されています。

2. 議決方法: 特別な規定がない限り、議決は出席議員の過半数で行われます。可否同数の場合には、議長の決するところによります。議長は、議決が紛糾した際に、最終的な決断を下す役割を担っています。

定足数の解釈

「総議員」の解釈には、法定議員数説と現在議員数説の2つの学説が存在します。日本国会の慣例は法定議員数説を採用しており、衆議院は159人、参議院は81人が定足数となります。法定議員数説が採用されている理由としては、3分の1という緩やかな基準を定めているため、総議員の解釈は厳格に行うべきであること、また、現在議員数説を採用すると定足数が常に変動するため、法的安定性に欠けるという問題点が挙げられています。

特別な規定

第56条2項では、「この憲法に特別の定のある場合」について言及しています。これは、憲法の他の条項で、より高い議決要件が定められている場合を指します。具体的には、議員の資格喪失に関する裁判の決定（第55条）、秘密会の議決（第57条1項）、議員の除名（第58条2項）、法律案の衆議院における再議決（第59条2項）、憲法改正の発議（第96条1項）などにおいて、出席議員の3分の2以上の多数、または総議員の3分の2以上の賛成が必要となります。これらの規定は、特に重要な意思決定において、より慎重な手続きを踏むことを求めています。

憲法改正における経緯

第56条の規定は、大日本帝国憲法（第46条、第47条）から継承されています。GHQ草案（Article L）や、憲法改正草案要綱、憲法改正草案においても、定足数と議決方法に関する規定は存在し、基本的な考え方は一貫して維持されてきました。これは、民主的な議事運営の重要性が、憲法制定の過程において常に認識されていたことを示しています。

まとめ

日本国憲法第56条は、国会の議事運営における定足数と議決方法を定めることで、民主的な意思決定プロセスを確保するための重要な条文です。定足数の規定は、少数派の意見を尊重し、議会の意思決定に一定の参加を義務付けることで、民主主義の根幹を支えています。また、特別な規定のある場合を除き、出席議員の過半数による議決というルールは、効率的な意思決定を可能にしながらも、民主的な手続きを重視する日本の政治システムを反映しています。この条文の理解は、日本の政治制度を理解する上で不可欠です。

もう一度検索