日本残酷物語

『日本残酷物語』は、平凡社によって昭和30年代半ばにあたる1959年から1961年にかけて刊行されたドキュメンタリー叢書です。日本の近世から現代に至るまで、歴史の表舞台から忘れ去られた民衆の過酷な生活の実態を克明に記録しています。全七冊で構成され、当時の社会に大きな衝撃を与えました。

本シリーズは、先行して刊行された『風土記日本』に続く企画として生まれました。「残酷物語」という目を引くタイトルは、フランスの作家ヴィリエ・ド・リラダンの同名小説から着想を得ています。監修者として宮本常一、山本周五郎、楫西光速、山代巴の名前が並んでいますが、実際の企画・編集作業は民俗学者の宮本常一と平凡社の谷川健一が中心となって進められました。他の三氏は名義貸しに近かったと言われています。刊行にあたって添えられた「刊行のことば」には、「これは流砂のごとく日本の最底辺にうずもれた人々の物語である」と記されており、シリーズ全体を通して、歴史の記録に名を残すことのない、社会の最底辺で苦難に満ちた生活を送る人々の実情や、彼らが置かれた過酷な環境に光を当てるという強い意図が込められていました。貧困、差別、災害、抑圧など、民衆の生活に影を落とす暗部が重点的に描かれています。

本書には百名を超える執筆者が関わったとされています。しかし、どの執筆者がどの項目を担当したかは、基本的に明示されていません。これは、集められた原稿に対し、谷川健一ら編集スタッフが大幅な加筆や修正を加えているためです。例外的に、編集者の手が入った箇所であることを示す文脈で、執筆者の名前が括弧書きなどで示される場面もわずかに存在します。この編集方針により、個々の執筆者による差異よりも、シリーズ全体のトーンとメッセージが統一されています。

『日本残酷物語』は刊行されるや否や、読者から非常に大きな反響を呼びました。特に第一部は発売から半年足らずで20刷を重ねるほどの売れ行きを示しました。読者からの反応が最も大きかったとされるのは、第一部に収録された「土佐檮原の乞食」に関する記述でした。これは、社会の片隅で生きる人々の現実が生々しく描かれていたことが、当時の読者にとって衝撃的であったことを物語っています。

本シリーズは以下の全七巻で構成されています。

第1部「貧しき人々のむれ」
第2部「忘れられた土地」
第3部「鎖国の悲劇」
第4部「保障なき社会」
第5部「近代の暗黒」
現代篇1「引き裂かれた時代」
* 現代篇2「不幸な若者たち」

これらのタイトルからも、各巻が扱うテーマが、貧困、辺境、歴史的抑圧、社会保障の欠如、近代化の影、そして現代の若者が抱える苦悩など、多岐にわたる社会の暗部に焦点を当てていることが分かります。

1995年に平凡社ライブラリーから刊行された版は、底本となったオリジナル版全七冊のうち、現代篇にあたる二冊を省略した全五冊の構成となっています。これにより、主に近世から近代までの記録が中心に収められる形となりました。

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