山代巴

山代巴（1912年6月8日 - 2004年11月7日）は、日本の作家であり、マルクス主義の立場から社会変革を訴えた運動家でもありました。旧姓は徳毛巴。彼女の作品は、特に農村女性の生活や労働者の苦境をリアルに描き出し、多くの人々に影響を与えました。代表作である『荷車の歌』は、農村文学の金字塔として、また映画化もされ、広く知られています。

生い立ちと活動

山代巴は、広島県芦品郡栗生村（現在の府中市栗柄町）で生まれました。東京女子美術専門学校（現在の女子美術大学）に入学しましたが、家庭の事情により中退を余儀なくされました。その後、貧民救済活動家の涌井まつとの出会いをきっかけに、労働運動に身を投じます。1932年には日本共産党に入党し、女工向けの夜学やサークル活動、反戦デモなど、非合法な活動にも積極的に参加しました。

1937年に山代吉宗と結婚。翌年には、神奈川県横浜市の旭硝子鶴見工場で臨時工として働き始めます。そこでの劣悪な労働環境を目の当たりにした彼女は、労働環境改善や労働者のための憩いの場作りなどの活動に尽力します。

逮捕と獄中生活

1940年、同志との活動が当局に知られ、治安維持法違反で夫婦ともに逮捕されてしまいます。懲役4年の刑を受け、獄中では拷問による流産や夫との死別という悲劇に見舞われます。獄中では、ゾルゲ事件で収監されていた九津見房子と親交を深め、互いを励まし合いました。九津見の墓碑の揮毫は、山代の手によるものです。

1945年8月、腎盂炎の悪化により仮釈放され、広島の生家に戻ります。

戦後の活動と文学

戦後は、尾道市立図書館長の中井正一が主宰した文化運動に参加し、多大な影響を受けました。広島原爆の被爆者の手記を収集する活動や、農村女性の意識改革のための活動に力を注ぎました。多くの作品を執筆し、農村の女性たちをエンパワーメントすることに貢献しました。

『荷車の歌』は、戦後農民文学の代表作として評価され、映画化もされています。1980年代には、自伝的小説『囚われの女たち』全10巻を刊行し、自身の体験をもとに、戦時下の女性たちの生活や心情を描き出しました。その他にも、エッセイや評論、編著など、幅広いジャンルで作品を発表しました。

没後と評価

山代巴は、2004年11月7日に92歳で亡くなりました。没後、1965年の著書『この世界の片隅で』が、2016年公開のアニメ映画『この世界の片隅に』とタイトルが酷似していることから注目を浴び、復刊されました。

彼女の訃報に際して、地元紙の中国新聞は「『農村民主化』『原水爆禁止』と硬い言葉で語られる戦後の運動も、山代さんのそれは説教色がなく、しなやかだった」と報じました。また、日本近代文学研究者の岩崎文人は、「戦前から戦後の時流を確かな目で見ることができた人」と評価しました。山代巴の生涯は、社会変革への情熱と、弱者に寄り添う温かい視線、そして文学への深い愛情に彩られています。

主な著作

『蕗のとう』（1949年）
『荷車の歌』（1956年）
『民話を生む人びと - 広島の村に働く女たち』（1958年）
『君はいまどこにいるか』（1975年）
『囚われの女たち』（1980年～1986年）全10巻
『岩でできた列島』（1990年）
『おかねさん』（1992年）
『千代の青春』（1996年）
* 『この世界の片隅で』（1965年）

山代巴の作品は、彼女の社会への鋭い視点と、人間への深い理解によって、今なお多くの人々に読み継がれています。

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