日本神話における食物起源神話

日本神話における食物起源神話

日本の神話には、食物の起源に関する独自の物語が存在します。これらの神話は、特に東南アジアで見られるハイヌウェレ神話に類似した特徴を持っています。具体的には、神が排泄物から食物を生み出すことに関わる物語が存在し、それが神を排除することで可能になるという構造です。また、天から食物の種を持って降り立った神の物語は、ギリシャ神話のデーメーテールと類似しています。

ハイヌウェレ神話型の物語

大気都比売神と須佐之男命

『古事記』によれば、月の神である須佐之男命（すさのお）が、高天原から追放された後、食物神である大気都比売神（おおげつひめ）に食料を求めたという物語があります。大気都比売は、自身の身体から様々な食材を生み出し、それを須佐之男命に振る舞いました。しかし、須佐之男命はその様子を見て、食物が汚されていると思い込み、大気都比売を無意識に殺してしまいます。この結果、大気都比売の体から様々な食物の種が生まれることになりました。頭、目、耳、鼻、陰部、尻にはそれぞれ異なる作物の種が宿り、最終的に神産巣日神（かみむすび）がこれらを手に取って五穀の種へと変えていきます。

保食神と月夜見尊

一方、『日本書紀』には、月夜見尊（つくよみ）が食物神である保食神（うけもち）を訪れた際の物語が語られています。天照大神からの命を受け、ツクヨミが保食神を訪ねると、彼女は口から米飯や魚、毛皮の動物を生み出してツクヨミをもてなします。しかし、ツクヨミはその行為を不潔とみなし、怒りのあまり保食神を斬ってしまいます。この出来事を知った天照大神は激怒し、太陽と月が昼と夜に分かれてそれぞれ出るようになった理由が説明されています。保食神の亡骸からもまた多くの作物が生まれ、これらが天照大神によって民のための食物として栽培されることになりました。

稚産霊と縄文神話

日本神話研究においては、稚産霊（わくむすひ）に関する物語も重要です。この神話では、火の神である軻遇突智と、伊弉冉尊の間に生まれた稚産霊の周りに、蚕や五穀が生じる様子が描かれています。この物語もハイヌウェレ型の神話に属し、食物の神秘的な誕生を示しています。

縄文時代の神話的観点

神話学者の吉田敦彦は、縄文時代の土偶が地母神を象徴し、しばしば破壊されている点に注目しました。彼は、地母神が殺されることで人々に役立つものが生まれるという神話が土偶の儀礼的破壊によって再現されたと考えています。このことから、ハイヌウェレ型の神話が縄文時代に既に存在したと考察されます。ただし、佐原真は考古学的観点からこの考えには注意が必要であると述べています。彼は、土偶破壊が縄文中期と以降の時代に見当たらないことから、神話の連続性には疑問が残ると警告しています。

このように、日本神話における食物の起源神話は、文化的背景や神々の相互作用を通じて、食物の重要性を伝えてきました。

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