日本西部及び南部魚類図譜

日本西部及び南部魚類図譜

『日本西部及び南部魚類図譜』は、明治時代から昭和初期にかけて活躍した実業家であり水産学者の倉場富三郎によって編纂された、貴重な水産動物の図譜です。この図譜には海産魚類、甲殻類、軟体動物など、様々な水産動物が網羅されており、全34巻、805枚という大規模な内容となっています。通称すなわち『グラバー図譜』とも呼ばれています。

倉場富三郎はスコットランド人商人のトーマス・ブレーク・グラバーと日本人の妻との間に生まれました。彼は明治40年に長崎汽船漁業会社を設立し、日本におけるトロール漁業の先駆者となりました。しかし新たな漁法の導入は沿岸漁民との摩擦を生むことになり、最終的には撤退を余儀なくされました。その後、事業の方針を変更し、保険業などに転換していきました。

図譜の編纂にあたっては、富三郎自身が長崎の魚市場を訪れ、新鮮な水産動物を収集しました。彼はこの新鮮な魚類や甲殻類を、優れた五人の画家によって生物学的に正確かつ精密な図に描かせました。その図は、英国製のケント紙を用い、サイズは横49センチ、縦36センチ。実際の大きさの生物は原寸大で描かれており、サメ類のように大きな生物には縮尺が記されています。

図版には、形態に関する重要な情報が含まれています。具体的には、鱗の数、鰭条の数、色彩、斑紋など、詳細にわたって描写されています。さらに、同種の生物の背面・腹面・体断面といったさまざまな視点からの形態を紹介しているため、学術的にも非常に価値のある資料となっています。また、各図版には生物の学名、地域特有の方言名、採捕された年月日や場所といったデータが付され、学術的な研究にも役立つ構成です。

最終的に354巻からなるこの図譜は、さまざまな魚類をまとめた『第1集・さめ類』から『第33集・くじら』までを含む形で編集され、総リストをさらに別巻で発表されました。

富三郎を理解していた渋沢敬三は、実業家である一方、漁業民俗学の研究者としても知られており、この図譜を見せられた際には「日本四大魚譜のひとつ」と称賛しました。最終的に、富三郎は遺言書の中でこの図譜の遺贈先を渋沢に指定しました。第二次世界大戦の後、富三郎が自殺した後には渋沢の手に渡り、彼は長崎大学水産学部に寄贈しました。

その後、長崎大学は昭和48年から約5年にわたり、この価値ある図譜の出版事業に取り組み、ついに5巻が刊行されました。この図譜は、過去の日本の水産業や生物研究に対する理解を深めるための貴重な資料として、多くの人々に利用されつづけています。

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