日活児童映画

日活児童映画（にっかつじどうえいが）は、日本の映画会社である日活が、主に1970年代から1990年代初頭にかけて製作した児童向けの劇映画や、虫プロダクションなどと共同製作したアニメーション映画の総称です。同時に、これらの作品の製作や配給を担った社内組織および企業体を指すこともあります。

発足の背景と経緯

1971年、経営再建を目指す日活において、経営陣と従業員が協力して組織された委員会が今後の方向性を模索していました。大規模作品の継続、低予算ポルノ映画による劇場網維持、テレビ・ビデオ事業推進などが検討される中、労働組合からの提案により、児童映画製作部門の新設が承認されました。

これは劇場公開ではなく、学校や地域での上映会といった「親子映画」形式での展開を視野に入れたものでした。この構想のもと、日活撮影所内に専門部署「日活児童映画室」が設置され、主に組合活動で中心的な役割を担ったメンバーらがこの新たな事業に加わりました。

組織の歩み

日活児童映画室は、その後組織を改編します。1978年には分社化され、「日活児童映画株式会社」として独立（後に「にっかつ児童映画株式会社」に改称）。設立当初から中心的な役割を担った3名のスタッフが子会社の役員に就任し、全国で15名体制となりました。当初は労働組合の幹部が全国営業会議に参加するほど緊密な関係でしたが、次第にその繋がりは希薄化します。

しかし、親会社である日活が1993年に会社更生法適用を申請し経営破綻すると、子会社であったにっかつ児童映画株式会社も同時に破産手続きを取り解散しました。

製作活動の展開と評価

1972年春に第一作「大地の冬のなかまたち」が完成。以降、年に約1本のペースで作品が生み出されていきます。当時の日活は経営難に直面し、「映画の灯を消すな」というスローガンのもと、従業員は厳しい状況下で良質な作品作りを目指しました。この努力は実を結び、日活児童映画の作品は国内外で高い評価を獲得します。

特に5作目の「先生のつうしんぼ」は、アジア映画祭で日本の大手映画会社の一般作品を抑えグランプリを受賞し、海外への輸出にも繋がりました。1975年の「アフリカの鳥」から1979年の「北極のムーシカミーシカ」が各地でヒットするまでの約5年間が、製作面での最盛期と言えます。この時期の作品は、その後の数年間、活発な上映活動によって営業的にも貢献しました。

しかしその後、自社での製作が停滞し、他社制作の作品に頼らざるを得ない状況に。久しぶりに製作された作品も、かつての勢いを失っていきました。1982年には「先生のつうしんぼ」「四年三組のはた」「アフリカの鳥」の3作品がTBS系列でゴールデンタイムに全国放送されるなど、高い評価を得ていた日活児童映画でしたが、その製作力は徐々に低下していきました。

配給・興行体制

配給・興行は、1960年代から各地で広まっていた、文化ホールなどでの「親子映画運動」に支えられました。これは、学校や地域での団体鑑賞を主体とする非劇場での上映形式です。しかし、発足当初、日活には全国規模での営業活動を展開する余力がありませんでした。

支社があった地域を中心に、地元の団体への普及活動を試みましたが、関係構築に至らず営業を休止した地域や、組合主導で劇場勤務経験のある社員が児童映画の営業に転換し活動を続けた地域もありました。その後、アニメ作品の成功を受けて営業拠点を再設置するなどしましたが、九州は日活から独立する形となりました。

組織体制の変化と経営陣の交代

親子映画運動の分野では、既に共同映画系列が活動していましたが、日活の参入は時に摩擦も生じさせました。全国に作品を供給するため、日活は共同映画系列とは別に、各都道府県で活動していた「映画センター」系列の組織と提携・協力関係を構築。日活自身ではカバーしきれない地域については、作品ごとに期間限定で配給・上映権を譲渡する方式を取りました。特定の都府県では日活が直営、九州は独立、それ以外の地域は映画センター系列との提携という形で展開しました。

分社化後、設立当初の主要スタッフ3名が役員に就任しましたが、本社企画作品の興行的失敗を受け、本社からの介入が発生。この3名の役員は降格され、後に独立して同様の親子映画事業を展開する競合関係となりました。

新任の社長は、当時主流だったアニメ中心の親子映画に対し、日活の伝統を生かした児童劇映画製作へと方針転換。しかし、その後に製作された作品も振るわず、再び他社作品への依存を深めることになります。

主な作品

自社製作作品として、複数の長編劇映画や短編（実写、アニメーション）が製作されました。また、東欧ブルガリアの短編アニメーションも扱いました。

自社製作が停滞した時期には、他社作品の配給も行いました。これにはアニメ作品が多く、代表的なものとして以下が挙げられます。

『11匹のねこ』（1980年）
『セロ弾きのゴーシュ』（1984年）
『風の谷のナウシカ』（1985年）
『火の雨がふる』（1988年）
『うしろの正面だあれ』（1991年）
『河童の三平』（1993年）

また、日活の旧作16ミリフィルムのレンタル事業も担っていましたが、ビデオやインターネットの普及により、この事業は市場を失っていきました。

解散までの約20年間、日活児童映画は経営難にありながらも、未来を担う子どもたちのための良質な作品を世に送り出し、非劇場での映画普及に貢献した存在でした。

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