日浦勇

日浦 勇

日浦 勇（ひうら いさむ、1932年10月24日 - 1983年10月18日）は、昭和時代に活躍した日本の昆虫学者です。短いながらも精力的な活動を展開し、特に蝶の研究や自然科学の普及・教育に多大な貢献をしました。

徳島県に生まれた日浦は、九州大学農学部農学科にて昆虫学を修めました。大学卒業後、大阪市立自然科学博物館（現在の大阪市立自然史博物館）に学芸員として奉職。以来、同博物館を拠点に、研究、標本の収集・整理、展示企画、そして来館者への解説など、幅広い活動を展開しました。1974年には学芸課長に昇進し、博物館運営の中枢にも携わりました。博物館における実務経験は、彼の研究や著作活動にも深く影響を与えました。

彼の研究対象は昆虫全般に及びましたが、中でも蝶の生態や分布に関する研究は特筆されます。特に、特定の種類の蝶が行う長距離の移動、いわゆる「蝶の渡り」現象に対する関心は深く、この分野の理解を深める上で重要な業績を残しました。

日浦勇は、専門的な研究論文だけでなく、一般の読者や子供たちに向けた著作を数多く発表したことでも知られています。その筆致は専門知識に基づきながらも平易で、自然の面白さや不思議さを生き生きと伝えました。

代表的な著作としては、蝶の渡りをテーマにした『海をわたる蝶』（蒼樹書房、後に講談社学術文庫に収録）があります。この本は、専門家だけでなく多くの自然愛好家に読まれ、蝶の生態に対する新たな視点をもたらしました。

また、『自然観察入門 草木虫魚とのつきあい』（中公新書）では、身近な自然を観察する方法や、そこで見られる生物たちとの関わり方を丁寧に解説し、多くの人々が自然に親しむきっかけを作りました。

さらに、子供向けの科学絵本も精力的に執筆しました。『むしのいちねん』、『うみをわたるとんぼ』、『おみやにいったらむしがいる』、『たらのき』といった作品は、魅力的な絵とともに昆虫や植物の生態を描き出し、幼い読者に科学への興味を育みました。これらの著作は、彼が研究者であると同時に、優れた科学教育者であったことを示しています。

学術分野への貢献としては、伊藤修四郎氏、奥谷禎一氏らとの共編著による『原色日本昆虫図鑑 全改訂新版』（保育社）があります。これは日本の昆虫を網羅した重要な図鑑であり、多くの研究者や愛好家にとって不可欠な資料となっています。

わずか50歳での逝去は、日本の昆虫学界にとって大きな損失でした。しかし、彼が遺した研究成果、数々の著作、そして博物館での普及活動は、今なお多くの人々に影響を与え続けています。ちなみに、彼の子息である日浦勉氏は、植物学の研究者として東京大学教授を務めています。

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