日立キドカラーの歌

「日立キドカラーの歌」（ひたちキドカラーのうた）は、日本の電機メーカー大手、日立製作所（以下、日立）が、当時製造・販売していたカラーテレビ受像機「キドカラー」の販売促進を目的として制作されたコマーシャルソングです。この楽曲は1968年に発表されました。

このコマーシャルソングが誕生した背景には、当時の日立が開発した最先端の技術を結集したカラーテレビ「キドカラー」の市場投入がありました。1968年、日立は革新的な技術を搭載した「キドカラー」を発表すると同時に、スライドレバーとチューニング・アイを組み合わせた新機能「ピタリコン」も開発しました。これらの画期的な製品の魅力を広く消費者に伝えるため、効果的なCMソングの制作が企画されたのです。

楽曲の作詞・作曲は、数多くの著名なCMソングやテレビ番組の音楽を手がけた作曲家、小林亜星氏が担当しました。そして、歌唱を務めたのは、当時国民的な人気を博していた女性コーラス・デュオ、ザ・ピーナッツです。「日立キドカラーの歌」は、ザ・ピーナッツが歌唱した小林亜星氏の楽曲としては、記録に残る限り唯一の作品であるとされています。

このコマーシャルソングは、主にテレビCMや、日立製品を取り扱う全国の電器店の店頭および店内でのデモンストレーションで広く活用されました。しかし、この歌が最も象徴的に用いられたのは、当時としては極めて画期的で先進的なプロモーション手法であった、飛行船「キドカラー号」を用いた空中宣伝です。

日立は「キドカラー号」と名付けた巨大な飛行船を日本各地で遊覧飛行させ、その搭載スピーカーから「日立キドカラーの歌」や「ピタリコン」のサウンドロゴを大音量で街中に響かせました。青空を悠々と漂う巨大な飛行船から親しみやすいメロディーが流れる光景は、人々の強い関心を引きつけ、その斬新さとユニークさから同業他社や各種メディアからも大きな注目を集めました。この楽曲は、キドカラー号での宣伝効果を最大限に引き出すよう、小林氏によって詞と曲が綿密に作られていたと言われています。

「日立キドカラーの歌」は、このような様々な媒体で人々に届けられましたが、長年にわたり一般のレコード店などで市販されることはありませんでした。主に、日立製品を購入した顧客への販売促進用の非売品特典として、一部の電器店でフォノシート（ソノシートとも呼ばれる簡易レコード）という形で配布されていたのです。

当時配布されたフォノシートには、『ピタリコンのついた 日立キドカラーの歌』という具体的なタイトルが記されていました。そのディスクジャケットは、非売品でありながら非常に本格的な作りでした。表面には、歌唱を務めたザ・ピーナッツのカラー写真と、宣伝で活躍したキドカラー号のイラストが鮮やかに印刷されていました。また、内面には楽曲の楽譜と歌詞が掲載されるなど、ファンや購入者が自宅で歌ったり演奏したりできるよう工夫されており、市販レコードに匹敵するクオリティを持っていたと言えるでしょう。

長い間、この楽曲は限られた関係者や当時のフォノシートの所有者しか聴くことができませんでしたが、時を経て、多くの音楽ファンやCMソング研究者の間でその存在が知られるようになります。そして、ついに2004年11月26日、ザ・ピーナッツのデビュー45周年を記念して発売された10枚組のボックスCDセット『ザ・ピーナッツ メモリーズBOX』（キングレコード）に「日立キドカラーの歌」が初めて商業盤として収録されたことで、広く一般の音楽ファンもこの懐かしいCMソングを公式な形で聴くことができるようになりました。

現在、日立のカラーテレビ「キドカラー」は既にその役目を終え、製造・販売は終了しています。しかし、「日立キドカラーの歌」は、日本の高度経済成長期における家電産業の活気や、当時の革新的なマーケティング手法を伝える貴重な文化資料として、今なお多くの人々の記憶に残る名CMソングであり続けています。この楽曲は、時代の技術革新と、それを伝えるためのクリエイティブな試みが融合した文化遺産とも言えるでしょう。

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