早朝始発の殺風景

早朝始発の殺風景

青崎有吾による短編小説集『早朝始発の殺風景』は、2016年から2018年にかけて『小説すばる』に掲載された5編の短編と、それぞれの物語の登場人物たちのその後を描いた書き下ろしエピローグを収録した作品です。2019年に集英社から単行本が発売され、2022年には集英社文庫から文庫版が刊行されました。第73回日本推理作家協会賞（長編および連作短編集部門）の候補にもなっています。

この作品集は、早朝の始発電車、放課後のファミリーレストラン、遊園地の観覧車など、日常的な空間を舞台に、高校生たちが織りなす人間関係をリアルタイム形式で描き出した青春ミステリーです。彼らの不器用さや心の機微が、会話劇を通して繊細に表現されています。

各短編のあらすじ

早朝始発の殺風景
早朝5時35分の始発電車で偶然出会った、クラスメイトの加藤木と殺風景。互いに相手がなぜこんな時間に電車に乗っているのか疑問に思いながら、20分間の車内で腹を探り合います。二人の会話から見えてくるそれぞれの秘密とは何なのでしょうか。

メロンソーダ・ファクトリー
文化祭のクラスTシャツのデザインを任された真田、詩子、ノギちゃんの3人組。デザイン案を巡って意見が対立し、それぞれの思惑が交錯します。友情と裏切りが入り混じる、少女たちのリアルな心理描写が見どころです。

夢の国には観覧車がない
フォークソング部の引退記念で遊園地にやってきた寺脇は、片思いの葛城ではなく、後輩の伊鳥と観覧車に乗ることに。気まずい空間の中、寺脇は伊鳥との会話を通して、自分の気持ちと向き合っていきます。

捨て猫と兄妹喧嘩
捨て猫を拾った妹が、離れて暮らす兄に猫を飼ってほしいと頼みます。しかし、兄はそれを拒否。猫の処遇を巡って兄妹喧嘩が勃発し、それぞれの立場や感情がぶつかり合います。家族の絆と葛藤を描いた物語です。

三月四日、午後二時半の密室
卒業式を欠席した煤木戸に卒業証書を届けにきた草間。クラスで孤立していた煤木戸との交流を通して、草間は彼女が抱える秘密に気づき始めます。密室の中で繰り広げられる、二人の少女の心理戦が見逃せません。

書誌情報

単行本：2019年1月4日発売、集英社、ISBN 978-4-08-771174-5
* 文庫本：2022年1月20日発売、集英社文庫、ISBN 978-4-08-744339-4、解説：池上冬樹

テレビドラマ

2022年11月4日から12月9日までWOWOWで放送されたテレビドラマ版では、山田杏奈と奥平大兼が主演を務めました。原作では表題作とエピローグにしか登場しない殺風景と加藤木が全話に登場するなど、ドラマオリジナルの要素も盛り込まれています。

漫画

山田シロ彦によるコミカライズ版が「となりのヤングジャンプ」で連載されました。単行本はヤングジャンプコミックスから全2巻で発売されています。

『早朝始発の殺風景』は、日常に潜むミステリーと、高校生たちの繊細な心情を描いた、青春ミステリーの傑作です。ぜひ原作小説、ドラマ、漫画と、様々な形でその魅力に触れてみてください。

もう一度検索