早期警戒衛星

早期警戒衛星とは

早期警戒衛星（そうきけいかいえいせい）は、軍事目的で使用される人工衛星の一種であり、偵察衛星のカテゴリーに分類されます。その主要な任務は、大陸間弾道ミサイル（ICBM）を含む弾道ミサイルの発射を、可能な限り早期に検知し、関係機関へ警報を発することにあります。

機能と技術的特徴

ミサイル発射を探知する主な手段は、ロケットエンジンの噴射に伴う強い赤外線放射を、搭載された高感度赤外線カメラやセンサーで捉えることです。この特性から、早期警戒衛星は「赤外線監視衛星」と呼ばれることもあります。

一般的な写真偵察衛星が詳細な地上情報を得るために比較的低い地球周回軌道を飛行するのに対し、早期警戒衛星は広大な範囲を継続的に監視する必要があります。このため、地球上の特定地域を常時監視できる静止軌道や、地球の広範囲（特に高緯度地域）をカバーできるモルニヤ軌道といった、より高度な軌道が採用されることが多いです。これらの高い軌道から、地球の地平線のかなたで発生したミサイル発射も速やかに検知することが可能となります。

歴史的背景と役割

早期警戒衛星の概念は、冷戦期におけるアメリカ合衆国とソビエト連邦（当時）の間の核軍拡競争の中で生まれました。両国は互いの長距離弾道ミサイルの奇襲攻撃を強く警戒しており、万が一の攻撃が発生した場合に、即座にそれを察知し、報復攻撃や防御措置を開始するための時間的猶予を確保することが喫緊の課題でした。早期警戒衛星は、この「相互確証破壊（MAD）」戦略における重要な要素として開発が進められました。

冷戦終結後もその重要性は失われず、地域紛争における弾道ミサイルの脅威に対処する上で有効性が示されました。例えば、1991年の湾岸戦争では、イラクが発射したスカッドミサイルを早期に探知し、地対空ミサイルシステムであるパトリオット部隊などに対して警報を送ることで、ミサイル迎撃作戦を支援し、その有用性を実証しました。

現代における重要性

現在、多くの国が開発・配備を進めているミサイル防衛（MD）システムにおいて、早期警戒衛星は不可欠な構成要素となっています。ミサイル防衛の最初の段階は、飛来する脅威を早期に発見し、その軌道を正確に把握することです。早期警戒衛星が提供する情報は、迎撃ミサイルシステムが目標を捕捉・追跡し、迎撃するための初期情報として極めて重要となります。ミサイルが上昇段階にあるうちに探知することで、より迅速かつ広範囲での迎撃機会が生まれるため、MDシステムの成功には欠かせない存在と言えます。

主な早期警戒衛星システム

主要な早期警戒衛星を開発・運用している国として、アメリカ合衆国、ロシア、フランスなどが挙げられます。

アメリカ合衆国:
MIDAS衛星シリーズ
DSP（Defense Support Program）衛星シリーズ
SBIRS（Space-Based Infrared System）シリーズ：DSPの後継システムとして開発・運用中
ロシア:
Oko衛星シリーズ
Prognoz衛星シリーズ
EKS（Edinaya Kosmicheskaya Sistema：統合宇宙システム）シリーズ：Okoなどの後継として開発・運用中
フランス:
Spirale衛星

日本においても、技術開発や導入の検討が行われたことがあり、その運用には高度な技術と多大なコストがかかることが指摘されています。

早期警戒衛星は、単なる偵察手段ではなく、国家の安全保障、特にミサイル脅威に対する抑止力と防御能力において、現代社会の重要な基盤の一つとなっています。

関連事項

偵察衛星
核ミサイル
* 相互確証破壊

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