昆布巻芝居

昆布巻芝居

『昆布巻芝居』（こんまきしばい）は上方落語の中でも特に楽しさと工夫が凝縮された演目の一つです。物語の舞台は、ある家主が昆布巻きを作っているところから始まります。この家主の匂いに敏感な特徴を持つ男が、無理を承知でお裾分けを頼もうとしますが、当然のことながら断られてしまいます。

この男は、食べ物を得るためのひとつの策略を考え出します。実は、家主が非常に芝居好きであることを思い出し、男は落語の中で演じられる『敵討二島英勇記』を引用し、宮本武蔵が異人のもとを訪れるシーンを演じ始めるのです。このシーンでは、武蔵が鍋の蓋を使って剣を振るう一幕が存在し、男はこの隙を利用して静かに鍋から昆布巻きをつまみ取るという cunning さが試されます。

ところが、この男の行動は家主に見抜かれ、「おまえは無茶しい（武蔵との地口）」とのツッコミが入ります。これに対して、男はすかさず「そういうあんたが異人（意地）汚い」と言い返し、笑いを引き出します。ここでのやり取りは、巧妙さとユーモアが入り混じった楽しい一瞬です。

アレンジの歴史

実は、この落語は初代桂文治によって作成されたとされていますが、その後長く弟子たちに伝わらず、口演が途絶えていました。そんな中、4代目桂文我がこの演目を復活させることに挑戦します。彼は、入門前に初代桂小春団治の著書『鹿のかげ筆』を通じてこの演目を知り、その後の落語家としての活動の中で小春団治の口演も録音テープで聞きました。

復活に際して、文我は『敵討二島英勇記』の具体的な演出方法が失われていることを問題視しましたが、「自分自身のスタイルを作り上げればよい」と考え、上方舞の舞踏家からもアドバイスを受け、独自の演出を盛り込みました。これによって、彼のバージョンでは登場人物がしっかりと特徴付けられ、「町内の食事を無心するやもめの男」と「商店の主人」という設定に再構成されました。

現在の受け入れ

4代目文我版では、ラストの落ちも工夫されており、商店の主人が「わずかなおかずをもらうために芝居を一幕演るとは、味の濃いことをしてくれたなァ」と言った後、男が「へえ。煮詰まらんうちに、もろて帰りますねん」と応じる形に仕上がっています。このように、『昆布巻芝居』はただの食事のための小話以上の深い意味を持ち、ユーモアと人間の欲求を絶妙に表現した作品となっています。

このような上方落語の演目は、伝承の過程で進化し、演じる人によって新たな工夫や解釈が加わることが魅力となっています。昆布巻を通じて繰り広げられる人間模様やユーモラスな対話の数々は、今もなお多くの人々に楽しさを提供し続けていると言えるでしょう。

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