昆虫類レッドリスト (環境省)

昆虫類レッドリストとは

昆虫類レッドリストは、日本の環境省が作成・公表している、国内に生息する昆虫類の絶滅リスクに関する評価リストです。これは、種全体の評価ではなく、日本国内の地域個体群の状況に基づいているため、世界的には広く分布している種でも、日本国内で絶滅の危機に瀕している場合はリストに掲載されることがあります。

沿革と改訂

このリストの始まりは、1991年に『日本の絶滅のおそれのある野生生物－無脊椎動物編』の一部として公表された「1991年版」です。その後、日本の生物多様性の危機的状況に対する認識の高まりや、新たな知見の集積に伴い、複数回の見直しが行われました。

主な改訂としては、2000年版、そして2007年版が公表されています。これらのリストに基づき、より詳細な情報を含むレッドデータブックも作成されています。例えば、2000年版リストを基にした『改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物 -レッドデータブック- 5 昆虫類』が2006年に刊行されています。

評価の枠組みと対象

環境省のレッドリストでは、生物を絶滅リスクに応じていくつかのカテゴリーに分類します。昆虫類を含む無脊椎動物においては、絶滅の危険性が特に高いとされる「絶滅危惧I類」について、さらにIA類（ごく近い将来における野生での絶滅の可能性が極めて高いもの）とIB類（IA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の可能性が高いもの）のような詳細な区分は設けられていません。

評価の対象となるのは、日本国内に生息する既知の昆虫類約30,000種です。ただし、分類学的に未確定な種や亜種、および海外や国内の他地域から人為的に導入された種は原則として評価対象外とされています。

掲載種の変遷と現状

昆虫類レッドリストに掲載される種の数は、改訂を重ねるごとに増加しています。初版の1991年版では212種だった掲載種数は、2000年版で424種、2007年版では566種と顕著な増加を見せています。ただし、この掲載種数の増加は、分類体系の見直しや、評価単位が種から亜種、あるいは地域個体群へと変更されたことによる影響も含まれており、単純に絶滅の危機に瀕した種がそれだけ増えたというわけではない点には注意が必要です。

一方で、絶滅のおそれがあるとされる種の数自体も増加傾向にあります。絶滅種や、絶滅危惧の各カテゴリーに分類された種の総数は、1991年版の40種から、2000年版で171種、2007年版で239種、そして2012年版では358種へと増加しています。

これまでに絶滅したと判断された種も存在します。例えば、チビゴミムシ類2種は、生息地である石灰岩地の採掘によって環境が失われたことが主な原因と考えられています。キイロネクイハムシは1962年以降、スジゲンゴロウは1970年代以降、国内での確実な記録が途絶えたために絶滅と評価されました。

近年の絶滅危惧種増加の要因としては、さまざまなものが挙げられます。特に、小笠原諸島や南西諸島などの島嶼地域では、特定外来生物に指定されているグリーンアノールをはじめとする外来種による捕食圧が深刻な影響を与えています。また、ゲンゴロウ類など、水生昆虫には生息環境である湿地の悪化や消失、さらには趣味的な採取による影響でカテゴリーランクが上昇（絶滅の危険性が高まった）した種が多く見られます。

評価対象となる主な分類群

昆虫類レッドリストでは、様々な分類群の昆虫が評価の対象となっています。主なものとしては、以下のような目（もく）が含まれます。

- カゲロウ目
- トンボ目
- カワゲラ目
- バッタ目
- ハサミムシ目
- カマキリ目
- ゴキブリ目
- チャタテムシ目
- カメムシ目
- コウチュウ目（甲虫目）
- ハエ目（双翅目）
- チョウ目（鱗翅目）
- トビケラ目
- ハチ目（膜翅目）

リストに掲載されている種数やカテゴリー分類を利用する際は、リストの見直しによって評価の単位（種や亜種、地域個体群など）が変更されている場合がある点に留意することが重要です。最新の情報を参照し、評価の背景を理解した上で活用することが求められます。

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